平成二十六年六月十八日提出
質問第二七三号
吉田昌郎・元福島第一原子力発電所所長に対して行われたヒアリング記録に関する質問主意書
提出者 辻元清美
吉田昌郎・元福島第一原子力発電所所長に対して行われたヒアリング記録に関する質問主意書
福島第一原子力発電所事故の原因究明と再発防止は、日本の政府と国民が世界に負った責務である。東京電力福島原子力発電所事故における事故調査・検証委員会(以下政府事故調)は、以下のような提言(以下最終提言)を行っている。
「東京電力の事故発生後の発電所における現場対処にも不手際が認められ、政府や地方自治体の発電所外における被害拡大防止策にも、(略)国内外への情報提供などの様々な場面において、被災者の立場に立った対応が十分なされないなどの問題点が認められた。加えて、政府の危機管理態勢の問題点も浮かび上がった。」
「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため(略)いまだに解明できていない点も存在する。」
「国、電力事業者、原子力発電プラントメーカー、研究機関、関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は、今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にあり、こうした未解明の諸事項について、それぞれの立場で包括的かつ徹底した調査・検証を継続する組織的態勢を組むべきである。」
「東京電力を始め関係者がこれまでに行った調査・検証は、事故状況の解明という点で十分なものとは言えず、なお検証すべき論点や公表されるべき資料・データが残されていると考える。東京電力を始め関係者は、事故の第一当事者であり、原子力発電に関する専門的な技術的知見を有する者として、事実究明を徹底する責任を改めて自覚して、引き続き事実解明を進める責務がある。」
そこで、政府事故調が行った福島第一原発事故関係者のヒアリング記録(以下ヒアリング記録)について、特に吉田昌郎・元福島第一原子力発電所所長(以下吉田元所長)のヒアリング記録(以下吉田調書)と二〇一二年五月二十九日に政府事故調宛てに提出された吉田元所長の上申書(以下吉田上申書)について、以下のとおり質問する。
一 福島第一原発の吉田元所長については、事故当時、東京電力の社員であり、現場対処について責任がある一人であったことは間違いないか。さらに最終提言には「現場対処にも不手際が認められ」「東京電力を始め関係者は、事故の第一当事者であり、原子力発電に関する専門的な技術的知見を有する者として、事実究明を徹底する責任を改めて自覚して、引き続き事実解明を進める責務がある。」とあるが、政府は最終提言に鑑み、吉田元所長は上記における「関係者」であり「第一当事者」であり「原子力発電に関する専門的な技術的知見を有する者」であったという認識か。そうであれば、吉田元所長には本来「事実究明を徹底する責任」があり、「事実解明を進める責務がある」はずであるが、政府の認識はいかがか。
二 内閣府ウェブサイトによれば、「公文書等(国の行政文書等)は国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録であり、国民共有の知的資源」であり、「このような公文書等を適切に管理し、その内容を後世に伝えることは国の重要な責務」である。国や東京電力、吉田元所長をはじめとする原子力発電の「関係者」は「事故の第一当事者」であり、「事実解明を進める責務がある」にも関わらず、吉田元所長自身が「国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録であり、国民共有の知的資源」である吉田調書について、公開を阻むことを是とする法的根拠はいったい何か。またそれを是とする政府の法的根拠は何か。
三 吉田上申書によれば、「聴取報告書合計七通及びその聴取内容が記録された録音媒体(以下本件資料)」について、「国会事故調から第三者に向けて公表されることは望みません」とあり、その理由として「聴取報告書合計七通の中には(略)他人に対する私の評価、感情、感想を率直に述べた部分があります。これらは(略)誤解を生んでしまう」「さらに、私が貴委員会からの聴取を受けた際、自分の記憶に基づいて率直に事実関係を申し上げましたが、時間の経過に伴う記憶の薄れ、様々な事象に立て続けに対処せざるを得なかったことによる記憶の混同などによって、事実を誤認してお話ししている部分もあるのではないか(略)そのため、私が貴委員会に対して申し上げたお話の内容のすべてが、あたかも事実であったかのようにして一人歩きしないだろうか、他の資料やお話ときちんと照らし合わせた上で取り扱っていたのであろうか」という危惧を述べている。
1 吉田上申書において、吉田元所長自ら、吉田調書の内容は「記憶の混同」等が含まれている可能性があるため他の資料との照合などの検証が必要であることと認めており、取り扱う際には「他人に対する私の評価、感情、感想」と「事実関係」が混同されるべきではないという、当然の事実を述べているに過ぎず、「事実の解明」に吉田調書が資することを拒むものではない。したがって、吉田元所長が「関係者」として「事実解明を進める責務」を担う立場にあったことも鑑み、吉田調書については、「聴取報告書合計七通の中には(略)他人に対する私の評価、感情、感想を率直に述べた部分」を除き、吉田調書に事実の誤認があるかどうかを検証するためにも他のヒアリング記録を合わせて検証した上で、「一人歩き」しないよう国会のしかるべき機関に対してのみ閲覧を許可すること等で、吉田元所長の危惧は払しょくされると考えるがいかがか。
2 払拭されないとすれば、どのようにすれば払しょくされると考えるか。
四 政府事故調は「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため(略)いまだに解明できていない点も存在する。」と自らの調査・検証が時間的制約等の下で不十分であり、「未解明の諸事項」があることを認めており、それゆえ関係者には「事実究明を徹底する責任を改めて自覚して、引き続き事実解明を進める責務がある」として「未解明の諸事項について、それぞれの立場で包括的かつ徹底した調査・検証を継続する組織的態勢を組むべき」としている。その観点から吉田調書は「なお検証すべき論点や公表されるべき資料・データ」であり、吉田上申書が示している危惧に対して適切な対応を行った上で、必要に応じた公開を行うべきと考えるがいかがか。
右質問する。