平成二十六年六月十八日提出
質問第二七二号
東京電力福島原子力発電所事故における事故調査・検証委員会が行ったヒアリング記録に関する質問主意書
提出者 辻元清美
東京電力福島原子力発電所事故における事故調査・検証委員会が行ったヒアリング記録に関する質問主意書
福島第一原子力発電所事故の原因究明と再発防止は、日本の政府と国民が世界に負った責務である。東京電力福島原子力発電所事故における事故調査・検証委員会(以下政府事故調)は、「今回の事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査・検証を、国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い、被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的として、平成二十三年五月二十四日の閣議決定により設置された」機関である。
また政府事故調は、以下のような提言(以下最終提言)を行っている。
「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため(略)いまだに解明できていない点も存在する。」「国、電力事業者、原子力発電プラントメーカー、研究機関、関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は、今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にあり、こうした未解明の諸事項について、それぞれの立場で包括的かつ徹底した調査・検証を継続する組織的態勢を組むべきである。」「東京電力を始め関係者がこれまでに行った調査・検証は、事故状況の解明という点で十分なものとは言えず、なお検証すべき論点や公表されるべき資料・データが残されていると考える。東京電力を始め関係者は、事故の第一当事者であり、原子力発電に関する専門的な技術的知見を有する者として、事実究明を徹底する責任を改めて自覚して、引き続き事実解明を進める責務がある。また、国の関係機関においても、関係者が適切な原因調査・事実解明を行うよう必要な指導等を行うとともに、その権限と責任の範囲内で自ら事実究明に臨むことも必要である。」「今後も東京電力や原子力安全規制機関等の関係者が事故原因の解明作業を継続し、新しい知見が得られた場合には、それを踏まえた事故防止策の継続的な見直しを行っていくことが必要である。福島原発事故の原因究明は、国際的にも注目されている。更に詳細な事実解明を継続し、その結果を国際社会に情報開示していくことは我が国の責務でもある。」
そこで、政府事故調が行った福島第一原発事故関係者からのヒアリング(以下ヒアリング)とその記録(以下ヒアリング記録)について、以下のとおり質問する。
一 内閣府ウェブサイトによれば、「公文書等(国の行政文書等)は国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録であり、国民共有の知的資源」であり、「このような公文書等を適切に管理し、その内容を後世に伝えることは国の重要な責務」である。「閣議決定により設置された」機関である政府事故調は、国の機関であると考えてよいか。また、国の機関である政府事故調によって行われたヒアリング記録は、「国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録であり、国民共有の知的資源」である公文書と考えてよいか。当該ヒアリング記録が「公文書」でないとすれば、どのようなものか。また、何らかの秘密指定を受けているのであれば、誰の、どのような判断で秘密指定を受けたのか。政府の認識を明らかにされたい。
二 当該ヒアリング記録のような文書を「適切に管理し、その内容を後世に伝えることは国の重要な責務」であると考えてよいか。
三 当該ヒアリング記録は、情報公開請求の対象となるのか。ならないのであれば、その根拠を示されたい。
四 二〇一四年五月二十七日に民主党議員に対し配付された内閣官房原子力規制組織等改革推進室作成「吉田元所長のヒアリング記録について」(以下内閣官房文書)によれば、「政府事故調が行った関係者からのヒアリングは、非公開(以下非公開①)を前提に、任意の協力を得て行われたものであるため、吉田元所長からのヒアリング記録を含め、ヒアリング記録は非公開の扱いとしている」とある。政府事故調がヒアリングを申し入れた時点で、「ヒアリング記録を非公開の扱い」とする旨をヒアリング対象者に告げているか。また、内閣官房文書における非公開①の意味は、「ヒアリング自体を公開の場ではやらない」という意味と考えてよいか。そうであれば、ヒアリング自体を公開の場でやらなかったことが、ヒアリング記録そのものを非公開とした根拠にはなりえない。政府には、この点について論理的な説明を求める。
五 報道によれば「政府事故調は聴取前の二〇一一年七月八日に『ヒアリングは原則として非公開かつ少人数で行う。相手方が公開を了承している場合は、適宜の方法(マスコミへの公開またはこれを前提とした録画等)で行う』と申し合わせた。非公開で聴取した場合の調書の扱いについて、『供述者の特定につながる部分および供述者が非公開を希望している部分については開示しない。必要な範囲で開示する』としていた。」とある(朝日新聞デジタル、二〇一四年五月二十四日)。当初は、「相手方が公開を了承している場合は、適宜の方法(マスコミへの公開またはこれを前提とした録画等)で行う」としていたのは事実か。いつ、どのような理由で方針が変わったのか。また当初は、非公開で聴取した場合の調書の扱いについても「必要な範囲で開示する」としていたのは事実か。いつ、どのような理由で方針が変わったのか。
六 政府事故調が、吉田元所長に対してヒアリングを行う際に、ヒアリング記録の公開について何らかのやりとりが行われていたことを、政府は承知しているか。
七 報道によれば、政府事故調は吉田元所長に対してヒアリングを行う際に「ここでお答えいただいたことを記録にとりますが、その記録が公になるという可能性がある。何から何まで、どう出るか、それは今はわかりませんが、事と次第によっては、お話しいただいた言葉がほぼそのままの形で公にされる可能性があるということをお含みいただいて、それでこのヒアリングに応じていただきたいと思います」と承諾を求め、吉田元所長は「結構でございます」と応じている(朝日新聞、二〇一四年六月五日)。概ねこのようなやりとりがあったことは事実か。政府事故調は当初、ヒアリング記録がそのまま公になる可能性を想定していたということか。その事実を政府は把握しているか。そうであれば、内閣官房文書にあるように「非公開を前提に任意の協力を得て行われたものであるため(略)ヒアリング記録は非公開との扱いとしている」という説明と矛盾する。当初、「ほぼそのままの形」での公開を想定して、ヒアリング対象者にも承諾を得ていたはずが、どこで、どのように方針が変わったのか。また、「事と次第」とはいかなる事態を想定していたか。
八 政府事故調は「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため(略)いまだに解明できていない点も存在する。」と自らの調査・検証が時間的制約等の下で不十分であり、「未解明の諸事項」があることを認めており、それゆえ関係者には「事実究明を徹底する責任を改めて自覚して、引き続き事実解明を進める責務がある」として「未解明の諸事項について、それぞれの立場で包括的かつ徹底した調査・検証を継続する組織的態勢を組むべき」としている。その観点から当該ヒアリング記録は「なお検証すべき論点や公表されるべき資料・データ」であると考えるがいかがか。
九 現在、東京電力には多額の国費が投入されている。国民の代表たる国会議員は、最終報告における「国(略)といったおよそ原子力発電に関わる関係者」の中に入っていると考えるが政府の認識はいかがか。例えば原子力問題調査特別委員会や経済産業委員会及び所属国会議員等からの「事実解明を進める」ために必要であるとの要望があれば、ヒアリング記録は検証材料とされるべきと考えるがいかがか。
一〇 公人である国会議員や公務員のヒアリング記録はまさに「国民共有の知的資源」そのものであり、本人の意思と関係なく公開されるべきと考えるがいかがか。また、それ以外のヒアリング対象者が自分自身のヒアリング記録の公開を了承した場合は、公開されるべきと考えるがいかがか。それぞれのケースで、公開されない根拠を示されたい。
一一 菅官房長官は記者会見において、ヒアリング記録を非公開とする理由について、ヒアリング対象となった全員が非公開を希望していることをあげたと報じられたが、報道によれば、少なくとも一〇名の国会議員が自らのヒアリング記録について公開を希望していることがわかった(朝日新聞、二〇一四年六月六日)。したがって、ヒアリング対象となった全員が非公開を希望していることが、ヒアリング記録を非公開とする理由にはならないという認識でよいか。
一二 菅官房長官は六月五日の記者会見で、本人の同意が得られれば「必要な範囲で開示したい」と述べ、ヒアリング記録を保管する内閣官房に対して、確認作業を開始するよう指示した。ヒアリングを受けた人数は七七二名とされているが、この内訳は、国会議員、東京電力、下請け企業、経済産業省等、それぞれ何名か内訳を明らかにされたい。なお現段階で、それぞれ何名に、ヒアリング記録の公開(または非公開)意思を確認しているか。そのうち、公開(または非公開)を希望しているのはそれぞれ何名か。意思確認作業はいつまでに終了させ、いつまでに取り扱いを決めるのか。今後の工程も示されたい。
一三 最終提言が述べているように、「更に詳細な事実解明を継続し、その結果を国際社会に情報開示していくことは我が国の責務でもある」。従って、国会議員や公務員などの公人が、公開を希望した場合には、ヒアリング記録は公開されるべきと考えるがいかがか。公開されないとするなら、その根拠を示されたい。
右質問する。