平成二十六年六月十八日提出
質問第二七一号
集団的自衛権の行使と報復攻撃に関する質問主意書
提出者 辻元清美
集団的自衛権の行使と報復攻撃に関する質問主意書
安倍首相は、五月十五日の記者会見で「北朝鮮のミサイルは、日本の大部分を射程に入れています。東京も、大阪も、皆さんの町も例外ではありません。そして、核兵器の開発を続けています」と国民に向かって発言した。「いわば現実から目を背けているダチョウの論理に近いわけでありまして、起こってもらいたくない論理は目を背けるということであります。」(二〇一四年五月二十八日衆議院予算委員会)「最初からこういう事態はないというふうに排除していくという考え方は嫌なことは見たくないというのと同じことではないか」(二〇一四年五月二十九日参議院外交防衛委員会)と発言している。
北朝鮮のミサイルについては、二〇〇二年十一月五日衆議院安保委員会で、当時の石破防衛庁長官が下記のように答弁している。「ミサイルの怖さというのは、要はそこに何を積むかということなのですね。委員御指摘のように、小型化をしなければ積めない、それは核の場合であって、通常弾頭でも、例えて言うと、日本海側にはずらっと原発が並んでいるわけです。そこへ落ちたらどうなるのということ、これは現在のところ安全だということになっています。そして、まずそういうことについては私どもはきちんとした責任を持たねばならない、国民に対する当然のことであります」(石破発言一)、「通常弾頭でも十分に脅威となり得るだろうというふうに思っております。そこに生物兵器、化学兵器を積まれた場合は、これはもう大変なことであって、あるいは核と同様のことかもしれない」(石破発言二)、「原発の問題は、私どもとしてはそれが落ちてもきちんとした対応ができるという態勢でおることには変わりはございません」(石破発言三)。
こうした状況下で日本が集団的自衛権を行使すれば、相手国の報復行為を正当化することにつながり、全面戦争に発展する可能性が高いことは従来指摘してきた通りである。日本の周辺で有事が起こり、「戦争にまきこまれる」場合と、「自ら先制攻撃をして全面戦争に突入する」場合では、日本の国土や国民に対する武力攻撃の想定が全く異なるものとなるという認識が必要である。
以下、質問する。
一 現在の世界情勢について、政府の見解を問う。
1 政府は、南シナ海における中国とベトナムの対立など、現在の東アジアまたは南シナ海周辺の事態は、我が国の「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるおそれ」があるものと見ているか。あるいはそういう「おそれ」がないものと見ているか。政府の見解を問う。
2 政府は、シリアにおける武力衝突の激化など、現在のイラクあるいはシリアの事態は、我が国の「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある」ものと見ているか。あるいはそういう「おそれ」がないものと見ているか。政府の見解を問う。
二 集団的自衛権の行使の結果、予測される報復攻撃について、政府の見解を問う。
1 一九五四年六月三日衆議院外務委員会で、下田外務省条約局長が集団的自衛権について「国際法上、たとえば隣の国が攻撃された場合に自国が立つ、そうすると攻撃国側は、何だ、おれはお前の国を攻撃してわけじゃない、なぜ立って来るかといって、これは国際法上、攻撃国側から抗議あるいは報復的の措置に出られてもいたし方のない問題」と答弁している。政府は現在も、集団的自衛権は攻撃国側から「報復的の措置に出られてもいたし方のない問題」であるという認識をもっているか。もし変わったのであれば、その理由を述べられたい。
2 「北朝鮮のミサイルは、日本の大部分を射程に入れています。東京も、大阪も、皆さんの町も例外ではありません。そして、核兵器の開発を続けています」と安倍首相は発言しているが、現在北朝鮮のミサイルは、日本の原子力発電所、特に福島第一原発を「射程に入れて」いるという認識か。入れていないという認識であれば、原発が「例外」になるとする根拠を述べられたい。
3 政府の認識では、日本において、北朝鮮のミサイルが射程に入れていない場所はどこか。
4 二〇〇二年十一月五日当時の政府見解として、北朝鮮の弾道ミサイルについて「日本海側にはずらっと原発が並んでいるわけです。そこへ落ちたらどうなるのということ、これは現在のところ安全」(石破発言一)、「原発の問題は、私どもとしてはそれが落ちてもきちんとした対応ができるという態勢でおる」(石破発言三)とあるが、現在政府は、北朝鮮の弾道ミサイルが我が国に対する報復攻撃として発射され、原発に落ちたときの事態を想定しているか。想定していないのであれば、「嫌なことは見たくないというのと同じ」と考えるがいかがか。そして現在も、原発へのミサイル攻撃について「これは現在のところ安全」であり「落ちてもきちんとした対応ができる」という認識か。変わらず「安全」であるとすれば、どのような「対応」をするのか、その根拠を述べられたい。「安全」でないとすれば、当時「安全」であったものが、なぜいまは「対応」できなくなってしまったのか、理由を述べられたい。
5 政府が示している「事例集」十二ページの「事例十一:米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃」では、「グアムやハワイに向かう弾道ミサイル」を「我が国が迎撃する」という事態が、集団的自衛権行使の検討対象事例として示されている。もし仮にその弾道ミサイルが①核兵器を搭載していたら、日本の上空における迎撃破壊によって日本の国土・国民は重大な核爆発による被害を被ることになる可能性がある。そうした事態を政府は想定しているのか。また石破発言二にあるように②生物兵器③化学兵器が搭載されている事態を政府は想定しているのか。①~③の事態を想定していないのであれば、「嫌なことは見たくないというのと同じ」と考えるが、二〇〇二年十一月五日当時は想定していた事態がいまは想定されない理由を述べられたい。
6 政府は、日本が集団的自衛権を行使した場合、その行使された相手国から日本に対する報復攻撃は想定しているのか。想定しているのなら、「事例集」で例示された各事例に即して、想定される報復攻撃を例示せよ。
7 政府は集団的自衛権について、「必要最小限度の行使」をうたっているが、「事例集」で例示された各事例に即して、いかなる対応が「必要最小限度の行使」に当たると想定しているのか、それぞれ例示されたい。例えば二〇一四年六月六日衆議院安全保障委員会で「公海上での艦船に対する攻撃というのはどのようなものがあるのか」という辻元清美の質問に対し、小野寺防衛相は「一般論として申し上げれば(略)潜水艦からの魚雷攻撃ということが考えられる」と答弁しているが、「事例集」九ページの「事例八:邦人輸送中の米輸送艦の防護」や同一〇ページの「事例九:武力攻撃を受けている米艦の防護」において、魚雷攻撃をする潜水艦に対し、どのような「防護」を行うと想定しているのか。当該潜水艦を撃沈させる可能性は想定していないのか。潜水艦を撃沈させれば、乗組員を死亡させる可能性も高いが、これらは「必要最小限度の行使」に当たると想定しているのか。
8 日本が「必要最小限度の行使」とする集団的自衛権行使であっても、相手国からすれば、日本からその国への先制攻撃と見なされて報復攻撃されるという事態は想定しているのか。
9 日本が集団的自衛権を行使して、日本を攻撃していない国を攻撃する場合、相手国に対して事前通告をする場合としない場合があるのか。しない場合はどのような事態を想定しているのか。
三 政府の出している集団的自衛権行使を検討する事例はいずれも洋上での事態を想定したものばかりである。以下、政府の見解を問う。
1 陸上において日本が集団的自衛権を行使することは想定していないのか。
2 想定しているとしたら、陸上での集団的自衛権の行使を検討する事例が示されないのはなぜなのか。
3 陸上での集団的自衛権行使検討の事例を公表する予定はあるのか。
四 安倍総理はホルムズ海峡での機雷掃海をも集団的自衛権行使の対象とする考えを示している。
1 水島朝穂早稲田大学教授が論文『虚偽と虚飾の安保法制懇報告書』(岩波書店「世界」七月号)で指摘しているように、一般社団法人日本・オマーン協会名誉会長である安倍首相は、同協会ウェブサイトで「我が国に輸入される約九割が通過するホルムズ海峡の国際通航路はオマーンの領海内に設置されており」と文章を寄せている。政府は、ホルムズ海峡の国際通航路はオマーン領海内に設置されておりイラン領海には設置されていないという認識か。また同論文は、米国国務省「Limits in the Seas」「No.94Continental Shelf Boundaries: The Persian Gulf」によれば、同海峡は狭隘で両岸いずれかの国の領海であり公海部分がないことも明らかにしている。政府は同海峡はオマーンとイランの領海に占められており、同海峡に公海は存在しないという認識か。
2 「事例集」十五ページの「事例十四:国際的な機雷掃海活動への参加」では「例えばホルムズ海峡の場合」「攻撃国による武力攻撃の一環として機雷が敷設され、海上交通路が封鎖された」という事態が、集団的自衛権行使の検討対象事例として政府から示されている。国際通航路はオマーン領海に設置されている以上、機雷をオマーン領海に敷設しなければ、海上交通路は封鎖できない。したがって、オマーン領海に敷設された機雷を海上自衛隊が除去しようと思えば、海上自衛隊はオマーン領海内に必然的に入ることになるが、政府の認識もその通りか。
3 ホルムズ海峡の国際通航路はオマーン領海に設置されており、海峡の最も狭い部分には公海が存在しない。したがって、集団的自衛権の行使を公海上に制限した場合は、ホルムズ海峡での機雷除去はできないことになるが、政府の認識もその通りか。
4 ホルムズ海峡で機雷掃海活動を行うということは、他国領海での集団的自衛権行使をも想定しているということか。
5 ホルムズ海峡の封鎖を主張しているイランは、親日国であり、二〇一三年十一月二十七日衆議院外務委員会でも、岸田外務大臣は「我が国はイランとの間において伝統的な友好関係を持っている」と答弁している。これは、歴代政府と同じ立場である。二〇一四年三月五日にはザリーフ・イラン外相が安倍首相を訪問し「安倍総理をイランにお招きしたい、日本とは伝統的な友好関係を有しており、大変重要な関係である旨述べました」とある(外務省ウェブサイト)。イランによりホルムズ海峡が封鎖されたとき、海上自衛隊がイランにより敷設された機雷を除去するということは、伝統的な友好関係にあるイランに対して、日本は武力行使をすることになるという認識でよいか。
右質問する。