平成一八年二月二日
提出者 辻元清美
衆議院議長 河野洋平殿
東京都国分寺市は、東京都の委託で計画していた人権学習のテーマで東京都に概要の内諾を得た上で、市民を交えた準備会をつくり高齢者福祉や子育てなどを題材に計一二回の連続講座を企画した。上野千鶴子・東京大学大学院教授(社会学)に、人権意識をテーマに初回の基調講演を依頼しようと二〇〇五年七月、国分寺市が東京都に講師料の相談をしたところ、東京都が候補人選に難色を示し、事実上、上野千鶴子教授を替えない限り国分寺市との委託契約を結ぶことはできないと告げられた。そのため国分寺市が同八月、委託の申請を取り下げたため、講座そのものが中止になった。
この講座は、文部科学省が昨年度から始めた「人権教育推進のための調査研究事業」の一環で、同省の委託を受けた都道府県教育委員会が区市町村教育委員会に再委託しているものだ。
上野千鶴子教授を採用しない理由として、東京都の教育庁生涯学習スポーツ部は、「上野さんは女性学の権威。講演で『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性があり、都の委託事業に認められない」と説明している。
東京都教育委員会は、二〇〇四年八月に「(ジェンダー・フリーは)男らしさや女らしさをすべて否定する意味で用いられていることがある」として、「男女平等教育を推進する上で使用しないこと」との見解をまとめている。
当事者である上野千鶴子教授は、国分寺市の「人権に関する講座」準備会のメンバーおよび、二〇〇五年一一月二〇日に開催された「人権を考える市民集会」参加者から経過説明を受けた。その後、上野千鶴子教授は、二〇〇六年一月一三日に東京都知事、東京都教育長などに公開質問状を提出した。新聞報道「『ジェンダー・フリー』使うかも、都『女性学の権威』を拒否」(二〇〇六年一月一〇日付け毎日新聞夕刊)によって、都の発言内容が一部明らかになり、また、一月二八日付け朝日新聞にも研究者一八〇八人が署名した抗議文を東京都に提出したことが大きく報道された。この問題は、教育現場における『ジェンダー・フリー』をめぐる論争とも密接に関連しており、大変、社会問題化している。
従って、以下、質問する。
- 上記の件で問題とされた「ジェンダー・フリー」という言葉について、政府の考えを述べられたい。また、東京都の示した「ジェンダー・フリー」についての認識を知っていたか。知っていた場合は、それについての政府の見解を示されたい。
- 上記の件で問題とされた「女性学」について政府の見解を示されたい。
- 東京都が上野千鶴子教授を講師として承諾するのを拒否した理由を、政府は正当であると考えるか。また、そのように判断する理由を示されたい。
- 東京都が国分寺市に対してとった措置は、委託事業の実施と講師選定にあたって、国が東京都に示した「要綱」と「運用指針」にそった行動であると考えるか。そうでないと考える場合、政府は自治体に対してどのような対処をすべきであると考えるか。
- 予定された講師が特定の用語を自治体とは違う見解をもって使うかもしれないという理由で講演を中止させるのは、憲法第一九条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」、あるいは、第二三条「学問の自由は、これを保障する」に反する行為ではないか。
また、憶測や偏見に基づいた判断によって、学者や知識人の言論に対して圧力がかけられるような状況を放置してはならないと考えるが、この点に関して政府の見解を示されたい。
右質問する。