2006年3月29日
提出者 辻元清美
衆議院議長 河 野 洋 平 殿
二〇〇六年一月二六日、エドワード・J・マーキー議員(米国、民主党 マサチューセッツ州)――エネルギー・商業委員会のシニア・メンバーで、超党派核拡散防止タスクフォースの共同議長――は、他の五人の下院議員らと署名した書簡を、加藤良三駐米大使に送り、六ヶ所再処理工場運転開始計画についての懸念を表明した。日本政府は、二〇〇六年一月二七日、内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省の連名で「日本政府見解」を発表し、二月一四日には、この「見解」を基礎とする返答を加藤大使がマーキー議員らに送った。
マーキー議員らは、書簡の中で「私たちは、核兵器利用可能なプルトニウムの抽出の継続が重大かつ不必要な脅威を国際的安全保障及び核不拡散にもたらすと確信しております。このため、私たちは、二〇〇六年の六ヶ所でのアクティブ試験を中止し、それを六ヶ所再処理工場の運転を延期するというより広範な合意の一環とするよう要請します。」と述べ、さらに、「私たちは、世界全体の核兵器利用可能核分裂性物質─高濃縮ウラン(HEU)及び分離済みプルトニウム─保有量を減らすと言う世界的イニシアチブの一環としてこのような措置を講じるよう日本に要請します。私たちは、これは国際社会にとって高い優先順位を持つべきものと考えます。なぜなら、このような行動が、核軍縮と核拡散防止を推進し、テロリストたちによる核兵器の獲得を防止するのに役立つだろうからです。 『余剰プルトニウムを持たないとの原則』を約束した一九九七年一二月のIAEAに対する日本声明を私たちは、高く評価します。しかし、私たちは、二〇〇三年末までに日本のプルトニウム保管総量は四〇・六トンに増大したと理解しています。商業用の増殖炉計画がなく、混合酸化物(MOX)使用計画が相当の問題に直面しているということを考えれば、新しい再処理工場におけるさらなるプルトニウムの分離及び蓄積は、日本の方針に反するものであることは明らかです。」
マーキー議員らの書簡に対する日本政府の見解は次の通りである。
1.我が国は、核不拡散性を確保した上で、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを国の基本方針としており、このような方針は、二〇〇五年一〇月の原子力政策大綱においても、複数のシナリオ分析を徹底的に比較検討した上での結果として改めて確認されている。
2.核燃料サイクルの推進に当たっては、利用目的のないプルトニウムを持たないという原則を踏まえて、透明性をいっそう向上させる我が国独自の原則として、電気事業者等は、アクティブ試験を前に、我が国のプルトニウム利用が厳に平和の目的に限られることについて内外の理解と信頼の一層の向上を図るため、プルトニウム利用計画を公表した。この公表内容は、原子力委員会により、プルトニウム利用の透明性の向上の観点から妥当であると判断されている。
3.また、六ヶ所工場においては、純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、ウランと混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという技術的措置も講じられている。
4.なお、我が国は、非核三原則を堅持し、核不拡散の観点から、厳格な核物質防護及び輸出管理規制に基づくIAEA(国際原子力機関)保障措置及び国内保障措置の厳格な適用を確保してきており、六ヶ所工場についても、平和利用を担保するための保障措置が適切に実施できることが国際的にも認められている。
5.我が国としては、非核兵器国としてこれまで原子力平和利用の実績・経験に基づいた核不拡散と平和利用を両立させるべく、核燃料サイクル政策を推進していく考えである。
これに関連して以下の通り質問する。
一.「見解」の2で触れられている利用計画によると、六ヶ所村で建設計画中のMOX燃料工場が完成する予定の二〇一二年までは、六ヶ所再処理工場で分離されるプルトニウムは蓄積され続けることになると考えられるが、二〇一二年までにその在庫量は、何トンに達するのか。(国際的なやり方に従い、国際原子力機関(IAEA)に報告するときと同じく、「核分裂性」プルトニウムの量ではなく、全プルトニウム量で答えるよう求める。)
二.日本は、国際慣行と異なり、核分裂性プルトニウムの量だけを示すことが多いが、「非核分裂性」プルトニウムは、高速増殖炉の運転や核爆発の際に核分裂を起こさず役に立たないというのが政府の立場か。
三.国際原子力機関(IAEA)は、プルトニウムの有意量(一個の核爆発装置が製造される可能性を排除できない核物質のおおよその量)を、プルトニウム238の含有量が八〇%以上のものを除き、その組成にかかわらず八kgとしているが、これに従うと、二〇一二年までの六ヶ所再処理工場のプルトニウムの在庫量は、核兵器何発分に当たるのか。
四.六ヶ所再処理工場では、二〇一二年以後もプルトニウムの分離が続けられ、右の在庫量に加わることになるが、マーキー議員らの懸念に応えるため、六ヶ所再処理工場での在庫量が、「見解」の2で触れられている利用計画に従えば、二〇一二年以後、年々どのようなレベルで推移するのか、毎年の在庫量を示されたい。
五.ヨーロッパや国内に既にある四三トン以上のプルトニウムを優先的に消費した場合、六ヶ所再処理工場での在庫量は、二〇一二年以降も増え続けることになるが、この量が何トンになれば、余剰プルトニウムだと見なすのか。
六.とりわけ、「見解」の2で触れられている利用計画に遅れが出た場合、六ヶ所再処理工場での在庫量は、長期に渡って増え続けることになるが、それが何トンになれば、余剰プルトニウムを持たないとの方針に従って、六ヶ所再処理工場の運転を中止させるのか。
七.テロリストによる盗取を懸念するマーキー議員らに対し、「見解」の3は、「六ヶ所工場においては、純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、ウランと混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという技術的措置も講じられている」としている。IAEA保障措置用語集(二〇〇一年版)では、核爆発装置の金属構成要素に転換するのに必要な時間(転換時間)の推定を示す表において、MOXは酸化プルトニウムと同じカテゴリーに入っており、その時間は一~三週間となっている。政府は酸化プルトニウムと比べ、MOXでは懸念がどれほど少なくなると考えるのか。また、その理由を示されたい。
八.MOXが盗まれる可能性を減らすために、六ヶ所再処理工場ではどのような警備が行われているか示されたい。
九.米国のエネルギー省は、一〇%以上のプルトニウム含有率を持つMOX(混合酸化物物)をすべて、最高レベルの保安措置を必要とする「カテゴリー1」の物質とみなし、そのようなMOXを貯蔵する施設では、武装グループの襲撃を想定して演習を行っている。施設の保安部隊に対し、その施設の保安要員とは別のグループからなる「攻撃側部隊」を組織して模擬襲撃をかける訓練である。六ヶ所再処理工場では、このような演習を行っているか、また今後行う予定はあるか示されたい。
一〇.米国政府は、六ヶ所再処理工場で使われているピューレックス法は、核拡散性が高いとし、核拡散抵抗性の高い新しい技術を開発すべきだとの考えをその国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想で打ち出している。日本は、このGNEPを支持するとしながら、核拡散性の高い六ヶ所再処理工場を急いで運転しようとしているが、それは矛盾ではないか。
右、質問する。