平成一八年一一月一七日
提出者 辻元清美
衆議院議長 河野洋平殿
日本政府のイラク戦争についての見解に関する質問主意書
イラク戦争の是非が争点となった米中間選挙で、共和党は上下院ともに過半数を割る結果となった。ブッシュ米大統領はイラク政策の誤りを認め、同戦争を推進・指揮したラムズフェルド国防長官を更迭した。二〇〇七年一月から米上院軍事委員長に就任する民主党のカール・レビン議員は、二〇〇六年一一月一三日、早期撤退開始に向けた動きを強める考えを強調、そうした発言を受けて今後のイラク政策の見直しが進むと考えられる。
塩崎官房長官は、九日午前の記者会見で「今後もイラクの復興を主体的に支援する姿勢は変わらない」と、従来の政策に変更がないことを示した。しかし、イラク戦争そのものの是非については触れていない。
イラク戦争を一貫して推進・指揮してきたラムズフェルド国防長官の更迭は、現在のイラク政策だけでなくイラク戦争そのものの必要性・正当性について厳しい判断を下したものである。イラク戦争について「米国支持」の態度を繰り返し表明してきた日本政府は、かつての自らの判断を検証する必要があると考える。
従って、以下、質問する。
一 《イラク攻撃について》
ブッシュ米大統領は、二〇〇三年三月一七日午後八時、イラクのフセイン大統領が政権にある限り武装解除はできないとして、フセイン大統領と二人の息子に対して四八時間以内に国外退去するよう要求し、拒否すれば軍事行動に踏み切ると通告した。それを受けて小泉内閣総理大臣は、二〇〇三年三月一八日午後、「米国の方針を支持します」と表明した。
その後、アメリカが派遣した調査団が「イラクに大量破壊兵器は存在しない」との最終報告を提出した。
1 米国にとってイラク攻撃にはどんな大義があったのか、今日現在の日本政府の見解を示されたい。
2 「日本が米国のイラク攻撃を支持したのは正しかった」という見解は、日本政府は今日現在も変えていないのか。
二 《イラクへの自衛隊派遣について》
イラクへの自衛隊派遣にあたり、政府は「この問題の根幹というのが、中東の、パレスチナ、イスラエルの和平にあるわけでして、この点についても、それから近隣諸国の平和と安定の維持につきましても、日本は石油の多くをこの地域に依存しているわけですから、我が国としても、この地域が平和であって安定をしているということはまさに国益であるというふうに思っています。」(川口順子外務大臣・二〇〇三年四月一六日、衆議院外務委員会)「要するに米国からは具体的に支援の中身を、これを聞かれているわけじゃありません。どうしても支援してくれと、そういうふうな話ではなくて、あくまでも我が国の必要性という観点からこの問題に取り組もうということであります。あくまでも自主的な、我が国としての自主的な判断であるということであります。それは、やっぱり中東地域の安定、イラクの安定、中東地域の安定、そして、例えば石油供給の安定とか、また国際社会の平和と安定という、そういうことを中心に考えた結果でございます。」(福田康夫官房長官・二〇〇三年七月二二日、参議院外交防衛委員会)と答弁している。当時官房副長官だった安倍首相も、自著の中で「日本は、エネルギー資源である原油の八五%を中東地域にたよっている。しかもイラクの原油の埋蔵量は、サウジアラビアについで世界第二位。この地域の平和と安定を回復するということは、まさに日本の国益にかなうことなのである」(『美しい国へ』一三五頁)と書いている。
1 自衛隊を「石油供給の安定」のために派遣しているという見解は、日本政府は今日現在も変えていないのか。
2 自衛隊をイラクに駐留したことによって得た「国益」とはどのようなものと考えているのか。具体的に明らかにされたい。
3 二〇〇三年当時の、「自衛隊をイラクに派遣する」とした判断について、日本政府は現在も正しかったと考えるか。
4 日本政府は、今日現在イラクは「この地域が平和で安定している」状況にあると考えるか、また「この地域の平和と安定を回復する」という方向に向かっていると考えるか。
三 《米国のイラク占領政策と、イラク国内の情勢について》
二〇〇六年三月一九日、イラクのアラウィ元暫定政府首相は「イラクは内戦のさなかだ。全国で毎日平均五〇~六〇人が死んでおり、これが内戦でなければ何が内戦なのか」と述べた。また米上院軍事委員会では米統合参謀本部議長や中央軍司令部司令官が「イラクが内戦に向かうことはあり得る」と証言し、イラクの治安情勢について「内戦に発展する可能性がある」と懸念を表明した。
1 今日現在の判断として、日本政府は米国のイラク占領政策が成功していると考えるか。
2 成功と考える場合、また失敗であると考える場合、それぞれの根拠を明らかにされたい。
3 日本が米国のイラク占領政策を支持したのは正しかったとの見解は、日本政府は今日現在も変えていないのか。
4 日本政府は、いまのイラク情勢を「内戦一歩手前」と判断するか。
5 「内戦一歩手前」と判断しないのであれば、日本が独自に判断した根拠を示されたい。
四 《「復興支援」を目的に現在もイラクに派遣されている航空自衛隊について》
1 「復興支援」の任務内容を具体的に明らかにされたい。
2 「復興支援」以外の任務内容はあるのか、具体的に明らかにされたい。
3 米軍部隊の兵士を輸送するのは「復興支援」に入るのか。日本政府の見解を示されたい。
4 日本政府は航空自衛隊を即時撤退させるべきと考えるがどうか。日本政府の見解を示されたい。
5 イラク政府がイラクを「内戦状態」と判断した場合、航空自衛隊を撤退させるのか。日本政府の見解を示されたい。
6 撤退時期を決めるのはあくまでも日本の自主的な判断とするなら、「復興支援」が目的となっている以上、米軍が撤退しても復興支援が必要であればイラクに留まるということであるのか。日本政府の見解を示されたい。
7 現在自衛隊がイラクに駐留していることによって得ている「国益」とはどのようなものと考えているのか。日本政府の見解を示されたい。
8 将来自衛隊がイラクに駐留することによって得られる「国益」とはどのようなものと考えているのか。日本政府の見解を示されたい。
右質問する。