前航空幕僚長の論文「航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅡ」についての麻生首相の認識に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
平成二〇年一一月六日
提出者 辻元清美
衆議院議長 河野洋平殿
前航空幕僚長の論文「航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅡ」についての麻生首相の認識に関する質問主意書
田母神俊雄前航空幕僚長は、民間企業が主催する懸賞論文に、政府見解と異なる内容の、「日本は侵略国家であったのか」と題する懸賞論文を応募するに先立ち、統合幕僚学校長として、航空自衛隊幹部学校幹部会発行の『鵬友』に下記のような論文を掲載している。「航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅡ」(『鵬友』二九巻六号、二〇〇四年三月)。それらには、下記のような記述がある。
(記述一)「米国は我が国が再び強国として米国に刃向かうことがないように徹底的に日本を精神的に破壊しようとした。(中略)これは折からの国際共産主義運動と相まって大成功を収め、今なお我が国には多くの反日的日本人が存在し」(二頁)
(記述二)「従来から自衛隊に物品等を納入している国内企業からみれば、当然自衛隊に対する売り上げが減るので、自衛隊にいろいろと相談にくる。『何とか当社の製品を買ってもらえないか』(中略)これらの会社からの依頼事項については、防衛産業・技術基盤の維持の観点から、担当者は頑張らなければならない。空幕の装備部長をしているときに(中略)私は、『頼まれたら頑張れ』と指導していた。(中略)しかし、みんなから一斉に頼まれたらどうしようもないではないかという人がいる。そのときは二度、三度と頼みにくる人を優先してあげてはどうか」(六―七頁)
(記述三)「隊員に対しては部外で個人や団体が実施する親日的な活動には経費も含めて個人的に支援するという意識を持たせるべきであろう。例えばここ数年新しい歴史教科書が話題になっているが、今後このような本などが出た場合、これをみんなで買いまくるぐらいの意識があってもよいのではないか」(二七―二八頁)
(記述四)「昭和五三年に栗栖弘臣統合幕僚会議議長が、我が国の有事に関わる法制上の問題点を指摘したいわゆる超法規的行動発言のときには、栗栖統幕議長は国民に対し無用の不安をあおったとかの理由で更迭された。(中略)栗栖発言は、当時は言ったことが問題になったが、これからは言わないことが問題になるのだ」(三一頁)
(記述五)「統幕学校では今年の一般過程から『国家観・歴史観』という項目を設け、五単位ほど我が国の歴史と伝統に対する理解を深めさせるための講義を計画した」(三五頁)
当該論文が、自衛隊統合幕僚学校長時代に執筆され、広く流布していたものであることを考えると、対外的な影響があまりに大きい。また、内部向けの会報に掲載されて配布されていることを考えれば、現行の自衛隊の教育内容について至急検証すべきと考える。田母神前航空幕僚長を同職に任命したのは当時の安倍首相であるが、引き続き航空幕僚長の地位に留めた麻生首相の見解を明らかにしたい。
従って、以下、質問する。
一 論文「航空自衛隊を元気にする一〇の提言―パートⅡ」に対する麻生首相の認識について
1 「記述三」にあるように、「隊員に対しては部外で個人や団体が実施する親日的な活動には経費も含めて個人的に支援する」ということが、自衛隊内で行われていた事実はあるか。「ここ数年新しい歴史教科書が話題になっているが、今後このような本などが出た場合、これをみんなで買いまくる」ということが、自衛隊内で行われていた事実はあるか。
2 麻生首相は、「記述四」にあるように、「栗栖発言は、当時は言ったことが問題になったが、これからは言わないことが問題になるのだ」との認識を共有しているのか。また統合幕僚学校長がこのような発言することは適切であると考えるか。適切でないとすれば、どのような処分が必要であったと考えるか。
3 「記述五」にある、統幕学校の一般過程『国家観・歴史観』ではどのような趣旨の教育が行われているのか。教育目的と教育プログラムを示されたい。またそこには、辻元清美提出の「田母神前航空幕僚の『懸賞論文』についての麻生首相の認識に関する質問主意書」における記述一~七、「田母神前航空幕僚の論文『航空自衛隊を元気にする一〇の提言』についての麻生首相の認識に関する質問主意書」における記述一~六、「田母神前航空幕僚の『航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅡ』についての麻生首相の認識に関する質問主意書」における記述一~五、「田母神前航空幕僚の『航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅢ(その1)』についての麻生首相の認識に関する質問主意書」における記述一~六と同じ認識の教育内容が含まれているか。それに対し、麻生首相は適切であると考えるか。
4 麻生首相は、このような論文を、田母神前航空幕僚長が統合幕僚学校長として出していたことを承知していたか。承知していたのであれば、処分を行わなかった理由は何か。処分を行わなかったことについて麻生首相に責任があると考えるか。
5 承知していないのであれば、航空幕僚長を引き続き任命するにあたり、適任であるかどうかの調査を行っていないのか。調査を行わなかったとすれば、その理由は何か。また、調査を行わなかったことについて麻生首相に責任があると考えるか。
6 統合幕僚学校長の名前で当該論文が出されていたことに対して、対外的、内部的にどのような影響があったか。また、どの程度の影響があったかについて検証したか。していないのであれば、すぐに検証すべきと考えるがいかがか。麻生首相の認識を示されたい。
7 当該論文が、当時現職の自衛隊統合幕僚学校長が書いていることを考えれば、自主回収すべきと麻生首相は考えるか。
二 安倍元首相の任命責任について
1 田母神前航空幕僚長を航空幕僚長に任命したのは安倍元首相である。安倍元首相は、このような論文を、田母神前航空幕僚長が統合幕僚学校長として出していたことを承知していたか。承知していたのであれば、航空幕僚長に任命した理由、処分を行わなかった理由は何か。
2 承知していないのであれば、航空幕僚長を任命するにあたり、適任であるかどうかの調査を行っていないのか。調査を行わなかったとすれば、その理由は何か。また、調査を行わなかったことについて安倍元首相に責任があると考えるか。
3 麻生首相は、安倍元首相に任命責任があると考えるか。そうでなければ、誰に責任があると考えるか。
4 安倍元首相の任命責任について、政府として調査すべきと考えるがどうか。麻生首相の考えを示されたい。
三 航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校の教育内容について
1 麻生首相は、航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校において、現在、「記述一~五」と同様の認識に基づいた教育を行うべきと考えているか。
2 航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校において、現在、「記述一~五」と同様の認識に基づいた教育が行われているか、日本政府は検証しているか。検証していなければ、至急調査すべきと考えるがいかがか。
3 もしも現在、「記述一~五」と同様の認識に基づいた教育が行われているとすれば、至急是正すべきと考えるがいかがか。
4 航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校では、かつて「記述一~五」と同様の認識に基づいた教育を行ったことはあるか、日本政府は検証しているか。検証していなければ、至急調査すべきと考えるがいかがか。
5 もしもかつて、「記述一~五」と同様の認識に基づいた教育が行われているとすれば、どのように対処すべきと考えるか。
四 現役の自衛隊統合幕僚学校長が、部隊内外で読まれることを前提に発表した以上、「記述一~五」を含む当該論文が政府の方針を示すものとして受け止められると考えてよいか。麻生首相および政府の見解を示されたい。
右、質問する。