核兵器問題等に関する質問主意書
平成二十一年 三月十一日
提出者 辻元 清美
衆議院議長 河野洋平 殿
核兵器問題等に関する質問主意書
ヒロシマ・ナガサキの被爆体験を持ち、核兵器廃絶を国是として取り組んでいるわが国にとって、核兵器に関する認識や立場は極めて重大な問題である。従って、核兵器等に関して次の事項について質問する。
二〇〇四年十月に発表された『安全保障と防衛力に関する懇談会報告書』―未来への安全保障・防衛力ビジョン ―は、その2.統合的安全保障戦略(1)日本防衛イ「同盟国との協力」の項で次のように述べている。
「日本防衛のための第二のアプローチは、同盟国との連帯行動である。日米安全保障条約に基づく日米同盟こそ、このための恒常的制度である。日本周辺の国際環境は、すでに述べたとおり、依然として不安定性に満ちており、核兵器などの大量破壊兵器による紛争の可能性も完全には否定できない。弾道ミサイルによる脅威も存在する。その意味で、今後とも日米同盟の信頼性を相互に高めつつ、抑止力の維持を図る必要がある。とりわけ核兵器などの大量破壊兵器による脅威については、引き続き、米国による拡大抑止が必要不可欠である。」
この報告書の表現は、核兵器以外の大量破壊兵器である生物・化学兵器による攻撃に対しても、米国の核による報復があり得ることを示している。
これに対し、二〇〇四年策定の「平成十七年度以降に係る防衛計画の大綱」では、「核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。」とだけ述べている。このことは、日本政府が懇談会報告書とは異なる立場をとり、核兵器以外の攻撃に対しては、核兵器による報復を日本は望んでいないことを明確に示したものだとも解釈できるが、一方で、一九九五年策定の「平成八年度以降に係る防衛計画の大綱」の「核兵器の脅威に対しては、核兵器のない世界を目指した現実的かつ着実な核軍縮の国際的努力の中で積極的な役割を果たしつつ、米国の核抑止力に依存するものとする。」と基本的に同じ内容であり、単に、前回の内容を踏襲しただけとの解釈もできる。
一、「平成十七年度以降に係る防衛計画の大綱」の解釈について
二〇〇四年策定の「平成十七年度以降に係る防衛計画の大綱」は、「核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。」とだけ述べている。この表現は、日本に対し核兵器による攻撃があった場合は、米国の核兵器で報復する可能性を表明することによって、そのような攻撃を抑止することを意図すると同時に、核兵器以外の生物兵器、化学兵器、通常兵器による攻撃に対しては、米国の核兵器による報復のオプションを米国が維持することを日本は期待していないということを表明したものか。
オーストラリアのケビン・ラッド首相と福田康夫前首相との合意によって設立された「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の共同議長を務める川口順子元外相とギャレス・エバンス元オーストラリア外相が、平成二十一年二月十五日午前にワシントンで第二回の同委員会会合後の記者会見を開いた際、エバンス元外相は、両議長らが米国政府の要人ら―ジョセフ・バイデン副大統領、ジム・ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ジム・ケリー上院外交問題委員会委員長、ハワード・バーマン下院外交問題委員会委員長、ブラッド・シャーマン下院テロリズム・不拡散・貿易小委員会委員長、ジェームズ・スタインバーグ米国務副長官―に会ったことに触れて、次のように述べている。
「最後に、[米]政権に私たちが訴えている第五のポイントは、米国の核ドクトリンに目に見える変化があることが非常に重要だということです。私たちは、米国の核兵器の唯一の目的は、米国およびその同盟国を、他国による核兵器の使用から守ることであるべきだということ、そして、核兵器の関わらない他の脅威に対して、核兵器の使用の威嚇をしたり、使用を認めたりするのは米国のドクトリンの一部であってはならないということを明確に主張しました。もちろん、現在拡大抑止を享受している同盟国のための安全の保証が必要ですが、このような変化は、国際的に心理的状況を変え、軍縮と拡散防止の両方のための弾みを強化する上で、他のものと同様、非常に重要な一歩だと信じています。」 このエバンス元外相の発言内容に関し、川口元外相は、 「核のドクトリン、核兵器の役割を核兵器に対する抑止に限定をするという姿勢で。もちろん、核抑止という傘の下に日本はあるわけですから、その場合も日本への安全保障あるいは、非核国への安全保障、拡大抑止の下にあるのは日本だけではありませんから、そういった国への安全保障をきちんと保証するということは前提なのですが、という話をしました。」と同日の記者会見の中で述べている。
二、核兵器先制不使用政策に関する立場について
米国が、米国またはその軍隊および同盟国が核兵器による攻撃を受けた場合以外は、核兵器を使用しないという先制不使用政策(ノー・ファースト・ユース政策)を明確に表明することを日本政府は積極的に支持するか。
三、核兵器の大幅削減に関する立場について
1 平成二十年八月に採択された米国民主党の選挙綱領は、「我が国の安全を高めると同時にNPT(核兵器不拡散条約)の下での約束の履行に役立てるため、米ロの核兵器の検証可能な大幅削減を追求し、また、世界全体の核兵器を劇的に減らすために他の核兵器保有国と協力する」と述べており、バラク・オバマ米大統領は、この方針に従った政策を遂行することを表明しているが、日本政府は、米露の大幅核削減を支持するか。
2 まず米露の配備核弾頭の合計を千発ずつにすべきだとの提案がなされているが、日本政府は、このような削減を支持するか。支持しないとすればなぜか。
3 他の核兵器保有国の核弾頭数が現状のままにとどまった場合、米露の核弾頭数は、何発ぐらいまで下げてよいと日本政府は考えるか。
4 米露の核弾頭数を、例えば、それぞれ二百発にするためには、他の核兵器保有国の核弾頭数をどの程度に下げる必要があると考えるか。
四、自衛のための核兵器について
1 日本政府は、これまで、憲法上は自衛のためなら核兵器を持ち得るとの解釈を示しているが、具体的にどのような核兵器なら自衛のための核兵器と呼び得ると考えるか。
2 NATO(北大西洋条約機構)諸国には、核地雷や単射程の核砲弾などが配備されていたことがある。このような核兵器を日本が保有した場合、領土内で核爆発の危険性を想定することになるが、日本政府の言う自衛のための核兵器というのはこのようなものを指すのか。そうでないとすると、どのような核兵器が自衛のための核兵器になり得るのか。
右質問する。