平成二十六年五月二十二日提出
質問第一七六号
「美味しんぼ」問題についての安倍総理大臣発言に関する質問主意書
提出者 辻元清美
「美味しんぼ」問題についての安倍総理大臣発言に関する質問主意書
小学館発行『週刊ビッグコミックスピリッツ』二〇一四年四月二十八日発売号及び五月十二日発売号に掲載された漫画「美味しんぼ」(当該漫画)の表現をめぐり、閣僚からの発言が続いている。
被ばくと鼻出血の問題について、「様々な声がありまして、これから子どもが結婚適齢期になったときに、二十代、三十代のときに、もし病気になったらどうするんですかというような心配する親御さんの声があります」「被害者の方が、子どもたちの方が、この病気は原発事故によるものなんですよということを立証しなければいけない。これはほとんど無理」「こんな心配の声をお寄せいただいています。子どもが鼻血を出した、これは被ばくによる影響じゃないかと心配なんだけれども、それを診察してもらった、検査してもらった、そのお金はどうなるんですか」「子どもの医療費は生涯免除していく。当時子どもであった者は、十九歳になっても二十歳になっても三十代になっても大人になっても免除していく。福島県の子どもは当然全額免除、それ以外の他県の皆様も、放射線の及んでいる地域がございます、そこも支援の対象としていく。当然、胎児となった子どもも入る」「遡及的な支援ということについても副大臣に働きかけていく」(以上二〇一二年六月十四日、参議院東日本大震災復興特別委員会)と、国会質疑でとりあげてきた森まさこ内閣府特命担当大臣は、五月十三日の記者会見で当該漫画について次のように「遺憾の意」を表明している。
「読者に誤解を与えるようなものであるということは大変残念に思いました。(略)放射能と鼻血との因果関係は科学的に証明されているわけではございませんので、それが因果関係があるかのように誤解されるような記載になっていたと思います。漫画というのはやはり子供も読みますので、影響力の大きさということを考えますと、大変残念(略)やはり現在生きている子供たちに与える影響を考えますと、やはり科学的な根拠をしっかり示した正確な情報を政府としては発信してまいりたいと思います。福島県民と子どもたちの根拠ない差別や偏見を助長するようなことについては大変遺憾に思います」。
さらに、二〇一三年九月七日のIOC総会で「状況はコントロールされております」(二〇一三年発言一)、「まったく問題はない。汚染水の影響は、港湾内で完全にブロックされている」(二〇一三年発言二)、「健康問題については、今までも現在もそして将来も、全く問題ない」(二〇一三年発言三)と全世界に断言した安倍総理大臣は、五月十七日の記者会見で「放射性物質に起因する直接的な健康被害の例は確認されていない」(二〇一四年発言一)、「根拠のない風評には国として全力を挙げて対応する必要がある。払拭するために正確な情報を分かりやすく提供する。今までの伝え方で良かったのか全省的に検証する」(二〇一四年発言二)と当該漫画について言及した。
様々な困難を抱えながら復興に取り組む方々や、今も福島県内にいらっしゃる方々等が「遺憾の意」を表明することは理解できる。しかし閣僚が漫画表現に対して一々言及することは、メディアや個人に有形無形の圧力を生じさせ、その表現活動を規制させるのでは、という懸念も大きい。また低線量被ばくによる健康被害については専門家間でも意見が分かれ、放射線に対する感受性については個人差があることも知られている。健康不安を抱える方々の状況を考えれば閣僚は発言に慎重であるべきと考える。
以下、安倍総理大臣の発言について質問する。
一 政府は、当該漫画は「根拠のない風評」という認識か。
二 安倍総理が二〇一三年発言三により「健康問題については、今までも現在もそして将来も、全く問題ない」と断言しているにも関わらず、一漫画表現により「風評被害」が起きる原因はどこにあると考えるか。福島における放射線対策そのものがうまくいっていないということではないか。
三 安倍総理が二〇一三年発言一~三で述べた内容は、それぞれ国民に十分伝わっているという見解か。二〇一三年発言一~三に信憑性があれば、こうした「風評被害」は起こらないのではないか。
四 安倍総理は二〇一四年発言二でいうところの「今までの伝え方」について、どこが、どのように不十分であったと考えるか。いつまでに検証し、どのような改善策を実行するのか。
五 安倍総理が二〇一三年発言三で、健康被害について「将来も、全く問題ない」と断言したのは、何を根拠にしているのか。信頼に足る調査などは行ったのか。
六 政府は「健康に不安を抱えていても『気のせい』と片づけられて自身の症状を口に出すことさえできなくなっている方々、自主避難に際し『福島の風評被害をあおる、神経質な人たち』というレッテルを貼られてバッシングを受けている方々、(略)残留放射性物質による健康不安を訴える方々」(前掲誌二〇一四年五月十九日発売号)の存在を把握しているか。こうした方々の不安を非科学的、「根拠のない風評」と切り捨てるのではなく、不安を受け止め寄り添う努力を続けるべきではないか。政府は県内避難者、自主避難者、福島県民、そして健康不安を訴えるすべての国民を対象にした疫学調査を行うべきではないか。
七 特定の漫画の個別の表現に対して、閣僚が「遺憾の意」を示すことにより、メディアや個人に有形無形の圧力を生じさせ、その表現活動が「規制」される危険性について、政府はどのような認識をもっているか。
八 高濃度の汚染水が海洋流出した可能性は高く、福島第一原発の汚染水処理の「切り札」と政府や東京電力が位置づけてきた多核種除去設備(アルプス)は全系統が運転停止し、本格運転の見通しすらたたない。さらに五カ月後に高濃度ストロンチウムの検出結果が公表されるなど、東京電力のデータ隠ぺいが疑われる中、安倍総理は二〇一三年発言を撤回しない。そうした安倍総理の姿勢こそ政府情報への不信を招き、健康不安を高め、「風評被害」を拡大する最大要因と考えられる。「伝え方」を変えても信頼できない「内容」であれば、「風評被害」の拡大は食い止められないと考えるがいかがか。安倍総理は、直ちに二〇一三年発言を撤回し正確な情報と見通しを示すべきではないか。
右質問する。