165-衆-日本国憲法に関する調査…-3号 平成18年11月16日
辻元小委員
皆さん、どうもありがとうございます。
私は、まず、国会法の改正の部分と、いわゆる国民投票にまつわる法制度の部分、制度設計に関して、最初に自分のひっかかっているところ、問題点を述べさせていただいた後、質問をしたいと思います。
私は、そもそも、この二つが一つの法案の中に入っていることに非常に違和感を感じてきました。順序で言えば、国会法の改正の部分を、例えば国会の中で憲法論議をこうしようとか、国会で発議する場合はこうしようという議論、これは通常であれば議院運営委員会の所管なんです。そこで国会の中の機関をどうするかとか、国会の中での物事の発議のルールをどうするかということは、国民投票をその後行うということと性質を異にするのではないかというふうにずっと思ってきているわけですね。
なぜかといいますと、提出者の御答弁の中には、個別か一括かとか、関連する事項があると言うわけなんですけれども、法の性質上、院内のルールと、それが発議された後の院外のものというのは認識として別に扱うべきものではないかと思っております。その上で、まず、国会法の部分について院内で十分議論して、発議についてはこうすべき、ああすべきが上がった上で、国民投票にかけるときにはということで別個に法律をつくっていくというのが筋じゃないかと実は私は思っているんですね。
ところが、先に国会の中で憲法改正の常設機関をつくってしまえとか発議の方法をこうしようというと、政治的になかなか進みにくい。ですから、本来の順番とは逆に、国民投票、手続がないのはおかしいじゃないかというところから入ってきて、そして、憲法審査会なるものも含めて国民投票法案という中に、本来であれば先に院内で十分議論すべきことを入れ込んでいるというような、何か違和感を持った法体系になっているんじゃないかと私は思っております。
そこで、この点についてまず井口参考人にお聞きしたいと思います。
井口参考人が先日お書きになったものに、ちょっと長いですけれども読みます。
憲法九六条の規定によれば、憲法改正の国民投票の前提は、国会による発議である。現在の国会法には、国会の発議に関する規定がないため、憲法改正のためには国会法の改正も必要となる。今回提出された法案は、与党案も民主党案も、「国民投票法」の制定と国会法の改正の両方を含むものであり、その意味では、「憲法改正手続法案」とよぶべきものである。
私は、ここのところは、国民投票だとか単なる手続法だと言っているけれども、実は、改憲準備法案じゃないかというように主張してきたんですね。この点を最初からしつこくこだわってこの委員会でも指摘した点なんですけれども。
その後に、
このような法案を「国民投票法案」とよぶことは、その基本的性格を曖昧にさせるものである。与党案も民主党案も、その施行期日を「公布の日から起算して二年を経過した日」としながらも、国会法改正の部分だけは、「公布の日以後初めて召集される国会の召集の日」としていることからしても、法案の重点は国会法改正にあるともいえる。その中核は、憲法調査会を、憲法審査会に改組することにある。
ちょっと略しまして、「ポスト憲法調査会の機関の設置が目論まれていること自体、憲法政治的には非常に重要な問題である」「国会法改正さえ成立すれば、憲法審査会において、改憲論議は着実に進行することとなろう。」という指摘をされているのを読みまして、これは私と同じような視点で見ているんじゃないかなというふうに思いましたので、この点について、先ほど省略されましたので、御意見をいただきたいことが一点。
そして、船田提出者に、先ほどこの点に対して二年間は憲法改正議論はしないんだ、附則にあらわしてもという発言がありましたけれども、ということは、二年たったらするのかという話なんですね。ですから、これはもとから性質が違うので、私はここは切り離すなりとずっと主張していることは御存じのとおりなんですけれども、やはりこの点は慎重に取り扱わないといけないと思っております。
さて、もう一点。憲法審査会に付与されている権限の話が先ほどありましたけれども、これは答弁者なんですね、「私たちといたしましては、これらの機関は憲法の調査、解釈において内閣法制局よりも強力な権限を有すると考えております」という答弁をしています。
小林先生にお伺いしたいんですけれども。
前来ていただいたときに、今の国会での憲法論議、懸念があるというようなことをおっしゃいました。そもそも、憲法観について逆立ちしていると。国家権力を縛るというものではないような憲法観が国会の中でも見受けられることとか、イラク戦争へのなし崩しということで懸念されていました。
私は、その権限というのは、そのときの政治状況とか、どんな議員が選ばれてくるか、どんどん改正されたら変わりますので、そこで内閣法制局よりも強い権限を持つものを今の私たちが決めてしまって、今後、憲法の解釈の取り扱いが非常に乱暴になるんじゃないかと政治状況を気にしていますが、その点についてぜひ率直な御意見を、私たちに耳の痛いことでも結構ですので、この際いただいておいた方がいいなと。機関としてはあった方がいいとか他国にあるという話ではなくて、やはり、私たちは生の政治の現場でこれは扱っておりますので、道を誤るわけにはいかないと思いますので、御意見ください。
以上です。
〔小委員長退席、愛知小委員長代理着席〕
井口参考人
学会の中で私の論文を読む人は余りいないんですけれども、紹介していただいて非常に光栄です。
御指摘の点、そのとおりだというふうに思いますが、国民投票というふうに語ってきたのは、僕は、ある種巧みな戦略というか、そういう部分であったというふうに思います。
私のレジュメの二枚目の八番目のところはそこだったのですが、かつてでは国民投票法というふうに言ってきた。今であれば、つながっているのは、憲法改正手続法というふうに言っているわけですね。
しかしながら、二〇〇一年の、憲法調査推進議員連盟のいわゆる議連案というのが出たときに、国民投票法については立法の不作為というふうに語っていたわけですが、そこにあるように「一般的に、国会法の改正については各会派合意の下、議会制度協議会等で議論された後、議院運営委員会から改正案が提出されることが多いようである」というふうに言っている。その後に、だから政治的な判断としてやむを得ず日本国憲法改正国民投票法案のみを先行して成立させるという選択肢も一つであろうかというふうに言っています。
何で政治的な選択で憲法改正国民投票法案だけを先にするのかというと、僕は、盛り上げ論だと、何となく国民投票という魅力的なものを見せるということに意味があったんだろうというふうに思います。実際、この憲法調査特別委員会の議案の審査の対象は、日本国憲法改正国民投票制度に係る議案の審査ということになっているはずですね。ここでも日本国憲法改正国民投票ということになっているはずなわけです。しかしながら、今度の国会法改正案では、「日本国憲法の改正手続に係る法律案等を審査する」というふうになって、ここで置きかえというか、すりかえということが行われているというふうに思っています。
実際に法案を見ても、先ほど辻元議員が指摘されたように、国会法改正部分だけはすぐ、あとは二年置くということは、やはり別だったというふうに制度設計者も考えているから、それを一つにくっつけることに意図的なものがあるというふうに私は思っております。
〔愛知小委員長代理退席、小委員長着席〕
小林参考人
国会に違憲審査機能があるというのは、たまたま司法の八十一条みたいに明文がないだけのことでありまして、憲法構造上、当然のことでありまして、先ほども御指摘があった憲法尊重擁護義務があって、そして法律をつくったり改廃している機関がありますよね。国会ですよね。そうすると、当然、法というのは憲法から段階構造があるわけですから、その段階の中に矛盾があったらいけないに決まっているわけですから、先生方は法律をつくりながら、こんな法律をつくって憲法に触れないかなと日常的にやっておられるんですよ、実は。
そのときの補助機関として法制局が各院にある。内閣にも法制局がそういう意味での補助機関としてある。そういう意味では、法制局というのはたかだかそういう機関でありまして、この辺にもいると思いますけれども、それだけのことです。
となれば、ただ裁判所みたいな、ああいう形でやらないだけの話であって、国権の最高機関としての、立法機関としての国会は常時違憲審査をしているし、していなきゃいけないんです。だからこそ、こういう先生方が何か言うと、そういう先生方が提案して、これは憲法上問題があるんじゃないですかと。これが違憲審査です。ですから、そういう意味では、機能は当たり前。
それを、ある意味では憲法にフォーカスを当てた常設審査機関ができることによって、国会の違憲審査機能ということが、つまり、憲法保障機能ということが直視されるのは、私はいいことだと思います。そういう意味では、先生方にも頑張っていただきたいと一国民として思います。
ただ、その際、わかりやすく言えば、実際にやる方たちの観点とか、もっとぶちまけて言えば、知識とか大丈夫ですかと。確かに選挙というのは、国会議員というのは、実は統計すると非常な高学歴社会ですけれども、実は学歴でも資格試験でも選ばれていなくて、人気投票で選ばれてくる。でも、結果的に高学歴社会というのはとても不思議だと思うんですけれども、それはやはり人間社会だからだと思うんですね。
それで、私は船田先生とか保岡先生を個人的にも存じ上げているし、広い意味で教養があることも、御人格があることもわかっていると同時に、でも、先生、ここは異論がございますという点もあるし、言えば聞いてくださるし、そういう関係を私は誇りに思っているんですけれども。そういう意味でいけば、常設機関になって審査を厳しくやり合えば、逆に辻元先生が誤解しておられるところも直るかもしれないし、船田先生が、ああ、そういう意味だったのかと。
それぞれ、そういうときに法制局がリサーチして材料をくれますし、私の方でも真剣に調べているんですけれども、憲法とは何かというのは、歴史的に、理念的に、価値的に言うと、私どもの言う憲法観は正しいんですけれども、ただ、価値判断をせずにざっと統計的にやれば、しょせん人間がいろいろな政治状況でつくったものですから、憲法によって国民に枠をはめたり、憲法によって国民に変にいわゆる倫理道徳を締めつけたりという、私に言わせれば、それは誤用でありますけれども、確かにそういうものも出てくるんですね。
だから、そういうところを公平に議論なさればみんなが成長する。私はたまたま個人的に存じ上げている、もちろん、中山先生も、もっと安心な方ですけれども、そういう意味では。そういう意味で、そういう事実を前提に言えと言われたら、なおさら、ここでやってみればむしろ生産的であろうと私は思います。悲観していません。
以上です。
船田小委員
辻元先生からまた御指名いただきまして、光栄に存じております。
先ほどの私の発言で、憲法審査会の機能として、当然のことながら憲法改正の原案について議論をする、あるいはそれを発議する、そういう役割は予定されるわけですが、その部分については、二年間、少なくともそれは凍結をする、そして、その間は日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連をする基本法制についての調査に専念をする、こういう趣旨で、できれば附則に書いておきたい、またおくべきであるというふうに申し上げたつもりでございます。
法律というのは、もう釈迦に説法で申しわけないんですが、これを書いてこれを書かないと、ではこっちがすぐ起こるのかという議論に必ずなるんですけれども、そこはやはり国会の常識として、二年間、調査に専念をしたその委員会なり組織が、その二年を経過したらすぐにぱっと手のひらを返すように、すぐに調査権限を越えて改正原案を発議しよう、こういうふうになるかというと、現実問題としては必ずしもそうはならない、むしろ、絶対にそうはならないというふうに私は確信をしております。
ここは、この二年を経過した後の、まさにこの憲法審査会あるいはそこに置かれるであろう合同審査会での議論、そこはもう与野党各政党がみんな入って、大変慎重な議論をそこから始めていくわけですから、そのような、二年たったらすべてが改正に向けて動くかということになると、私はそうは理解しておりません。
赤松(正)小委員
お三方の先生方、ありがとうございました。
今、辻元さんと船田さんの方で議論がございましたけれども、それと関連をする話でございますが、私は与党の側にいるんですが、与党の側にいるというか提出者の側なんですけれども、私はもちろん公明党でございますので加憲という観点で憲法を変えるということについて賛成の立場に立った上で、将来において、この法律の中に規定されている憲法審査会の方向性というものは当然認めるわけですけれども、その前段階として私が強くこだわりたいと思っておりますのは、実は憲法調査会の五年というものをどう見るかということでございます。
憲法調査会の五年は、要するに、改正を前提としない、広範囲な立場から自由に一九四六年憲法を議論した、こんなふうに私は理解をいたしておりまして、それが終わった途端に新しい憲法の話が常設の機関で出るというのは、ちょっと真ん中を飛ばしちゃっているというふうに実は思うわけでございます。つまり、それは船田委員の方から、あるいは先般の当委員会の議論の中で、私の質問に対して与野党ともに提出者の方から答えがあったわけですけれども、それではまだ足りないと。つまり、憲法審査会の仕事を前半部分と後半部分に分けて、一つのパックにくくっておいて、時間がたったら前半から後半に移るというのではなくて、まずは、憲法調査会の次の機関としての性格を持った場所で、今の一九四六年憲法を俎上に上げて、改正を前提にした上でありとあらゆる角度から議論をするというものをしっかりやらないといけない。つまり、急がば回れである、こんなふうに思っております。
お三方に、小林先生の意見はさっき少し出しておられましたが、改めてお三方に、憲法調査会の位置づけと、それから次に来る憲法審査会との関連性で、私が今申し上げたように、すき間の二年でやるというのではなくて、しっかり看板をかけかえてやるべしという意見に対してどう思われるかというのが一点。
それからもう一点は、さっき小林先生のお話の中でございました国民予備投票的なるものということ。私も、実は、国民の意思をどう見るのかということについては、なかなか一般的な世論調査等だけでは難しいなと。だからといって、憲法を改正しますよという国民投票をいきなりぶつけるというのもおかしいし。ただ、あらゆる意味において、先ほど言った、ポスト憲法調査会で一九四六年憲法を、どこをどう変えるか、変えなくていいのか、法律で対応できるものはどこなのかというようなことをしっかり議論する。その終わったと同時ぐらいというか、ある一定の形を持ったときに、国民予備投票的なるものをした方がいいというふうに思うんですけれども、小林先生は、先ほどに加えてもう少し具体的なイメージをお話ししていただければと思うのと、あとのお二方には、今申し上げた、そういうふうな国民の意思をどう酌み上げるのかというのを、最終段階の国民投票ではない、前段階でやるということに対してどのようなお考えをお持ちか、お聞かせ願いたいと思います。