164-衆-日本国憲法に関する調査…-2号 2006年02月23日
辻元委員
社会民主党・市民連合の辻元清美です。
昨年十一月の欧州調査団の報告を行います。
まず冒頭に、調査団派遣のために御尽力をいただきました皆様に心から感謝を申し上げたいと思います。スタッフの皆様、そして各国で迎え入れてくださった皆様も、本当に微に入り細に入りいろんな手配をしていただきましたこと、本当にありがとうございました。
さて、今回は、オーストリア、スロバキア、スイス、スペイン、フランスの五カ国を訪ねました。各国では、投票年齢、投票方式、メディアや運動への規制、投票率の規定、有効投票の計算の仕方、そして在外投票のあり方など、個別課題についての調査も行いました。これらは有意義な調査になりましたが、私は、一般的に国民投票はどのような場合に行うのか、そして、憲法という国の基本法に関する国民投票はどのように実施されているのか、さらに、国民投票という直接民主主義の意義と問題点はどこにあるのかなどの根本的な課題について特に関心がありました。
国民投票の取り扱いについて、訪問した五カ国の中でスイスとそれ以外の国々では大きな違いがあるように思いました。
スイスではさまざまな課題について年四回定期的に国民投票を行い、多いときは一回で九つのテーマについての投票が行われるときもあると聞きました。私たちが訪問しましたときも、ちょうど遺伝子組み換え作物に関するテーマなどの国民投票のキャンペーンの最中でした。スイスでは憲法にも税率など細かい点まで書き込んでおりますので、税率などが変わるたびに憲法を変えているというような実情がありました。
これに対し、ほかの四カ国では、一般的な政策課題についての国民投票はそれほど頻繁には行われていませんでした。
オーストリアでは、戦後の国民投票は二回だけでした。原子力発電所の運転開始の是非、これは否決。そして、EU加盟の是非、これは承認。この二回だけでした。スロバキアでは、EU加盟とか民営化に伴う収支報告書の公開など五回実施されておりました。EU加盟は承認でしたが、それ以外は二件が否決、残り二件は投票が有権者の過半数を超えなかったために無効になっておりました。スペインでは、一九七八年に制定された現憲法下ではNATOへの残留とEU憲法の承認の二回のみでした。フランスでは、一九五八年に制定された現憲法下で六回。二年前に行われたEU憲法条約批准が有名ですけれども、これが否決されたということが非常に大きな衝撃であったというような印象を受けました。
次に、憲法改正のための国民投票についてです。
現行憲法が制定されてから、オーストリア、スロバキア、スペインでは一回も行われていません。フランスでは三回行われ、二回が可決、一回は否決されております。
さまざまな立場の方々からお話を聞き、国民投票によって重要な政治課題に直接意思表明できることは主権者にとって意義があるというように認められる反面、国民投票に関しては、さまざまな立場の、きょうも委員の方が報告されているとおり、苦い経験もあり、その実施に当たっては慎重な判断がなされているという強い印象を持ちました。
例えばオーストリアでは、先ほどからも御指摘があるとおり、国民投票によって一九三八年のナチス・ドイツによるオーストリア併合が決まったという不幸な歴史への言及がありました。これは非常に重く受けとめました。
スロバキアでは、基本的権利や自由などについては国民投票の対象とすることができないという除外規定が設けられている。また、国連憲章の内容を憲法に取り入れておりますけれども、これを国民投票によって変えるというのは非常に困難なことであるというような御発言がありました。
また、スイスでは大学教授から次のような指摘がありました。フランスの一九六〇年代にドゴール大統領はみずからの政治基盤を強化するために国民投票を行ったが、これは決してよい例とは言えないとか、ポピュリズムへの凋落の危険を防止するためには政府が国民投票を主導するか否かが大きな要素となるだろうという御発言や、スイスでは政府が恣意的に関与することを極力排除している、この御発言によって、このように国民投票を多用しているスイスでも、この国民投票のあり方の功罪を深く認識した上で直接民主制を実施しているという印象を受けました。
スペインではこんな指摘もありました。欧州では、スイスやフランスなどを除き、ほとんどの国では国民投票を頻繁に行うことはない。国民投票を行う難しさ、危険性をしっかり認識する必要がある。複雑な政治問題をイエス、ノーで問うのは、簡単にそのこと自体が操作されてしまう可能性がある。このような御指摘もありました。
スペインでは現憲法下ではまだ一回も憲法改正は実施されていませんけれども、基本的人権など重要な憲法改正を行う場合、複雑で慎重なプロセスが踏まれていることの御紹介もありました。具体的には、国会で上下院の三分の二の賛成をまず得て、その時点で議会を解散し、総選挙を実施し、さらに新しい議会によってもう一度上下院の三分の二の賛成を得なければ憲法を変えることができない、基本的項目を変えることはできないということでした。これは、フランコ時代、九〇%以上の国民が独裁体制と言われた政権に賛成をしていったという、苦い歴史経験による厳しい、厳格な要件ではないかと思いました。
フランスでも、国民投票の結果が過大に評価されると政治的なリスクが大きくなるので、国民投票という手段を頻繁に使うことに慎重な意見がございました。
もう一つ、憲法を変える場合、部分改正か全面改正かという点について日本側からオーストリアの憲法裁判所長官に意見が求められた、その答えを紹介したいと思います。
非常にユニークな答えだったのですが、与党のコール議長、その方にも御面会していたのですが、にお聞きになれば即座に全く新しい憲法を制定するべきだと答えるであろう、しかし、野党代表に聞けば部分的に変えるだけでいいだろうと答えるだろうというようなお答えや、隣国のスイスでは二十年間にわたり憲法全般の改正についてさんざん議論を繰り広げた上で新憲法が制定されたようだが、結果的には部分的に改正しただけだったというようなエピソードが紹介されました。
オーストリアでもスペインでも長い間憲法の根本的な改正についての議論はなされているのですけれども、実際に改正するかどうか、どのような形にするかの議論が一つにまとまるのはどこも大変難しいんだなというような印象を受けました。憲法改正の国民投票が行われたフランスでも、大統領の任期の短縮など、一部の、部分の改正であったということも知りました。オーストリアで憲法の全面改正が行われる場合はどんな場合かの言及がありましたが、現在の共和制を廃止して君主制にするとか、連邦制における州を廃止するとか、民主主義を廃止するなどといった、国のあり方の根本を変える場合であるというような例示がなされて、非常に驚きました。どこの訪問国でも、憲法を全面的に変えるということは想定していないという強い印象を受けました。
最後に、日本側から、憲法改正のための国民投票制度を構築し、これを実施するに当たって考慮すべき事項は何かという問いがスペインで出されましたが、これに対する答えを報告したいと思います。
強調したいのは民意である。憲法改正のために国民投票を行う場合、政府内や議会内での大きなコンセンサスを得るだけでなく、国民一般の民意として大多数の賛成がなければ国民投票の実施は難しい。スペインでも憲法はここ二十七年間続いており、そこに定められている規定はかなり強固なものとなっている。したがって、民主主義の原則に照らしても、そのような憲法を改正するためには非常に強い民意がなければならないという御指摘があり、これは非常に重要だと思いました。
このたびの訪問は、私は大変有意義な訪問であったと思います。それぞれの国で、議会制民主主義の長い歴史の中で、憲法に非常に厳格に皆さんが向き合っていらっしゃるという姿勢も学びました。私たちが国民投票制度を考える場合に、その姿勢をしっかりと受けとめながら、まず直接民主主義というもののあり方そのものについての根本的な議論を深める上で、一般的な国民投票制度や憲法についての国民投票制度が論じられるべきであるという認識を深めて帰ってまいりました。
以上です。