右の質問主意書を提出する。
平成二十九年三月十六日
提出者 辻元清美
衆議院議長 大島理森殿
東日本大震災六周年追悼式で総理が「原発事故」に触れなかったことに関する質問主意書
二〇一七年三月十一日に行われた政府主催の「東日本大震災六周年追悼式」における、安倍総理の式辞の中で、これまでの式辞では必ず言及されてきた「原発事故」への文言が使われなかった。
福島では、避難難指示区域からの避難者数が五万七千人(二〇一六年七月十二日、原子力被災者生活支援チーム集計)おり、うち帰還困難区域からの避難者は約二万四千人いる。さらに、放射性物質の不安からふるさとへ帰還できない避難者(自主避難)を含めると、総計七万九千人(二〇一七年二月十三日現在、復興庁資料)の避難者がいる。
この現状にもかかわらず、「原発事故のために、住み慣れた土地に戻れない方々」への言及がないのは、安倍総理の、原発事故を過去のものにしたいとする姿勢の表れではないかと懸念する声もある。
本年四月より、一部を除く避難指示解除準備区域・居住制限区域の避難指示が解除されるが、見込まれる帰還率は今なお低い。また、帰還困難区域全体についての解除見通しは立っていない。このように、避難生活の長期化が深刻な問題となっている状況を、より重く受け止めるべきではないか。
福島第一原発事故後に制定された関連法(放射性物質汚染対処特別措置法、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法、福島復興再生特別措置法、東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(以下、「子ども被災者支援法」という。)はいずれも、「原子力政策を推進してきたことに伴う国の社会的な責任」を明記している。また、政府はこれまで復興に向けた基本姿勢として、被災地に寄り添い、福島の復興再生においては前面に立って継続して取り組むとしてきたが、先の式辞はこれと矛盾していると言わざるを得ない。福島県知事も「県民感覚として違和感を覚えた。(原発事故による被害は)過去形ではなく現在進行形だ。原発事故、原子力災害という重い言葉は欠かせない」と疑問を呈している。
以下、質問する。
問一 安倍総理が、「原発事故」の文言を使わなかった理由は何か。
問二 「原発事故」の文言を外したのはいつ、誰の判断によるものか。
問三 二〇一六年の内閣総理大臣式辞では、「被災地では、未だに、多くの方々が不自由な生活を送られています。原発事故のために、住み慣れた土地に戻れない方々も数多くおられます」と安倍総理は発言した。政府は、二〇一七年三月十一日、「原発事故のために、住み慣れた土地に戻れない方々」は存在しないという認識か。存在するという認識であれば、どれだけの方々が、福島県内、県外にそれぞれいらっしゃると把握しているか。
問四 安倍総理は式辞の中で、「福島においても順次避難指示の解除が行われるなど、復興は新たな段階に入りつつあることを感じます。」と述べているが、避難指示区域の避難指示解除の決定に当たっては住民の理解が百パーセント得られたとは言い難い区域もあり、また、解除後の各市町村における帰還が進んでいない現状を踏まえれば、避難指示解除が進められていることを主な理由として復興が新たな段階に入りつつあると明言することは、総理が、被災市町村それぞれの実情を直視していないことの表れではないか。
問五 安倍総理がいう復興の「新たな段階」においても、子ども被災者支援法に明記されているように、これまで原子力政策を推進してきたことに伴い国が社会的な責任を負っているという政府の基本方針は現在も変わりないか。
問六 三月十一日にあわせ毎年行われてきた総理記者会見が、本年は行われなかった。これに関し、三月十日の菅官房長官記者会見では、「記者会見を行わないことによって、被災地の復旧・復興に対しての政府の取組が後退したと受け止められないか」との質問に対し、「そこは全くないと思っている」との答えがあった。しかしながら、追悼式で「原発事故」の文言にも触れず、その上、毎年行ってきた総理記者会見も実施しなかったことに関しては、国民から政府の取組姿勢が後退していると受け止められて然るべきではないか。総理記者会見を行わなかった理由を明確に説明されたい。
問七 菅官房長官は、三月十三日の記者会見で「(原発事故の)風化はありえない」という認識を示したが、福島県知事の疑問に答え、被災者の方々の不安を払拭するためにも、昨年までくりかえされてきたように、安倍総理自らの言葉として、「原発事故」の文言を盛り込んだメッセージを出すべきと考えるがいかがか。
右質問する。