私が出した「集団的自衛権の解釈に関する再質問主意書」に対する答弁書で、驚くべき事実が明らかになった。
質問>過去、海外在留邦人が紛争国から脱出するケースで、米国に救助され、米国の艦船で輸送された事例はあるか。過去、海外在留邦人が紛争国から脱出するケースで、紛争の一方の当事国に救助され、当該国の艦船で輸送された事例はあるか。
答弁>例えば、平成二十三年二月、リビアにおける情勢悪化を受け現地から邦人四名が米国政府のチャーター船による輸送された例がある。
なんと、安倍総理が集団的自衛権の行使についてパネルで示した「日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない」というケースは、過去に、2011年2月リビア内乱における1例しかないことがわかった。それにこれ、軍艦じゃなくチャーター船(すなわち民間の船)ではないか。
安倍首相のパネル「邦人輸送中の米輸送艦の防護」
しかも、リビア?
「え? あれだけ煽ってこの1例だけ? だけど、リビアは反政府デモの拡大で、他国との戦争じゃない。これのどこが集団的自衛権の事例なんだ?」
このときのリビアが置かれた状況は、反政府デモの拡大による「内乱」であって、他国の攻撃を受けたわけではない。対して、安倍総理がパネルで示した「有事」は、攻撃国と被攻撃国が存在する武力戦争である。その被攻撃国にいた在留邦人を輸送する米輸送艦に対し、攻撃国から攻撃の危険があるというのが設定だった。
まさかあのパネルから、リビアでの民間船による4名の邦人脱出を想像した人は皆無だと思う。国民の危機を煽って、欺いていることになるよ。
すなわち、
・リビア内乱の場合、「攻撃国」も「被攻撃国」は存在しない。
・「米国政府のチャーター船」=軍艦ではなく、民間船である。
・このときの「米国政府のチャーター船」が、リビア政府軍やデモ隊から攻撃を受ける可能性は考えられない。
・したがって米国政府から、防護の要請があるとは考えられない(おそらくは、米国の護衛艦の出動すら検討されていなかったと考える)。
私が指摘してきたように、やはり「軍艦」に民間人は乗せるというのはほとんど考えられない。しかもそれが紛争の当事国ならなおさらで、過去にそうしたケースはないことも、今回の答弁書で明らかになった。
私は湾岸戦争開戦直後、NGOの活動で紛争地にコミットしたことがある。私たちが南アラビア海からスエズ運河に向かって客船で航海中に、湾岸戦争が勃発したのだ。
このとき「サウジアラビアに緊急寄港して数百人の米国人避難民を助けてほしい」と米軍から連絡がきた。こうしたときに船舶は、人道的観点から自国や同盟国だけではなく、国籍を選ばず乗船させなければならない。この時は結局、他国のタンカーが救助することになった。
紛争が起こった場合、各国の軍艦が民間人を乗船させず、民間の船や飛行機に輸送を要請するのはなぜか。軍艦は「敵」からの攻撃の標的になる可能性が高いため、民間人が巻き添えになる。避難民に化けたテロリストが乗り込んでくる可能性もある。だいいち、乗り込むスペースがない。
安倍首相はこのような紛争地での軍事的常識をご存じないようだ。「子どもやお母さんを助けられない」と国民感情に訴える「物語」で国民に納得させようという意図が透けて見える。
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質問>
七 二〇一四年五月十五日の記者会見において、安倍首相は「その場所で突然紛争が起こることも考えられます。そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない」「こうした事態は机上の空論ではありません」と「具体的な例」を示した。当該発言について問う。
1 過去、海外在留邦人が紛争国から脱出するケースで、米国に救助され、米国の艦船で輸送された事例はあるか。救助・輸送された海外在留邦人のうち民間人の人数・割合はどれくらいか。
2 過去、海外在留邦人が紛争国から脱出するケースで、紛争の一方の当事国に救助され、当該国の艦船で輸送された事例はあるか。救助・輸送された海外在留邦人のうち民間人の人数・割合はどれくらいか。
答弁>
七の1及び2について
例えば、平成二十三年二月、リビアにおける情勢悪化を受け現地から邦人四名が米国政府のチャーター船による輸送された例がある。