「砂川判決」と自衛隊の合憲性に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
平成二十六年四月二十五日
提出者 辻元清美
衆議院議長 伊吹文明殿
「砂川判決」と自衛隊の合憲性に関する質問主意書
安倍総理大臣は一九五九(昭和三十四)年十二月十六日の最高裁判所大法廷判決(以下「砂川判決」)について、下記のような発言を繰り返してきた。
「今まで、自衛隊を認めるという最高裁判決がそもそもは砂川判決としてあったわけでございます」(二〇一三年十月二十二日、衆議院予算委員会)<発言1>
「そして、言わば国の、憲法九条はありますが、国の存在、生存権そのものを奪っていないという中において、砂川の裁判の判決と自衛隊の合憲性というものがあるんだろうと、このように言われているわけであります」(二〇一三年十月二十三日、参議院予算委員会)
「現行憲法においても、御承知のように、自衛隊については全く明記がなされていないわけであります。そして、個別的自衛権の行使についても明記がなされていないわけであります。その中において、いわゆる砂川裁判において最高裁の判決として、いわば我々の生存権を憲法は否定するものではないということにおいて、書いていないんですから、明文化がないわけでありますから、解釈によって、個別的自衛権については我々は行使できる、いわば自衛隊が合憲になったわけであります。明文規定がないんですから。自衛隊について明文規定はないんですよ。個別的自衛権についても明文規定はないんですよ。まさに、その中において砂川判決があって、最高裁で最終的に判断が決定をしているわけでございます。」(二〇一四年二月二十日、衆議院予算委員会)
砂川判決をめぐり、これまで政府は下記のような答弁を行ってきた。
<一九六七年三月三十日参議院予算委員会、高辻正巳内閣法制局長官>
○羽生三七君 政府自身も、政府自身の解釈としては、行政府として合憲だと解釈をしておる。しかし、判決の中には自衛隊が合憲だとはうたっておらないと、それは認めると、それでいいんじゃないですか。
○政府委員(高辻正巳君) (略)判決で言っておりますのは、自衛のための措置をとること、それから自衛権があること、そのことだけを判断をしているわけです。そのほかのことについては触れておりません。そのほかのことと言うと語弊がございますが、あの場合にはアメリカの駐兵の問題が問題だったわけでございますので、その点以外のことについて、判決はそれ以上にわたって判断を下しておりません。<答弁1>
<一九七三年九月十三日参議院内閣委員会、山中貞則防衛庁長官>
○上田哲君 砂川判決ということが出ましたけれども、砂川判決は、総理も一ぺん間違われたように、自衛隊合憲というようなことは言っていないわけであります。
(略)
○国務大臣(山中貞則君) (略)砂川判決で自衛隊が合憲なりと判示してあるということを私は申しておりません。わが国の平和憲法は決して無防備、無抵抗を定めたものではないということにとどまっておるということは承知いたしております。<答弁2>
また、広く読まれている憲法の教科書や、元内閣法制局長官が政府の憲法解釈について書いた文献にも、下記のように書かれている。
「最高裁判所は(略)砂川事件判決で、二項が『いわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として』と述べるにとどめ、その後も自衛隊の合憲性の問題に直接答えることを避けている。」(佐藤幸治「日本国憲法論 法学叢書七」成文堂、二〇一一年、九八頁)
「第九条問題についての裁判所の判断例:警察予備隊令(一九五〇年)、保安庁法(五二年)、自衛隊法(五四年)によってすすめられてきた日本の軍備、および、日米安全保障条約(一九五一年成立━━六〇年に重要改定)にもとづくアメリカ軍への基地提供と軍事協力については、その憲法適合性が争われてきた。何度か裁判所の判断も求められ、いくつか下級審の判断も出ているが、最高裁がこの点につき実質判断を公にしたことはまだない。(中略)日米安全保障条約にもとづく行政協定に伴う刑事特別法違反という具体的な刑事事件(砂川事件)のなかで、米軍駐留を違憲とする一審判決(東京地判一九五九・三・三〇)に対する飛躍上告をうけた最高裁は、憲法が保持を禁じている戦力は『わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力』をいうとする解釈を示すとともに、他方で、安保条約のように『主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有する』国家行為は『一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り』『司法審査権の範囲外』にあるから、『違憲なりや否の法的判断』は『終局的には主権を有する国民の政治的批判に委ねられる』(最大判一九五九・一二・一六)とした(いわゆる統治行為論の論点につき、後出二五四)。」(樋口陽一『憲法<第三版>』創文社、二〇〇七年、一四五━一四六頁)
「自衛隊の憲法適合性についての司法の判断としては、自衛隊を違憲とした長沼事件第一審判決や、統治行為に属し、司法審査の外にあるとした控訴審判決などがあるが、周知のようにこれまで最高裁の見解が示されたことはない。」(坂田雅裕『政府の憲法解釈』有斐閣、二〇一三年、一〇頁)
以下、質問する。
一 <発言1>について。
1 当該発言における「自衛隊を認める」ということは、自衛隊が合憲であると最高裁判所が判決で示したということを意味するのか。または、単に「存在することを認めた」ということを意味するのか。
2 安倍総理が、「自衛隊を認めるという最高裁判決がそもそもは砂川判決としてあった」「いわゆる砂川裁判において最高裁の判決として(略)自衛隊が合憲になった」と発言する根拠はどこにあるのか。
二 これまで<答弁1、2>で示されてきた「砂川判決は、自衛隊を合憲と認めたものではない」とする政府見解は、安倍政権でも変わらず受け継がれているか。変わったのであれば、いつ、なぜ、どのように変わったのかを示されたい。
右質問する。