7月31日に行われた「首都圏反原発連合と脱原発を目指す国会議員との対話テーブル」について朝日新聞社説に掲載されました。
2012年8月2日
朝日新聞朝刊
社説
市民と政治
分断か対話か瀬戸際だ
官邸や国会の壁を隔てて対峙してきた政治と市民の間に、小さな窓が開いたように思う。
衆議院議員会館で一昨日夕、開かれた対話の場でのことだ。
原発再稼働をめぐり、首相官邸前の抗議行動や国会包囲を主催する市民グループと、菅直人前首相ら超党派の脱原発派国会議員、計20人余りが参加した。
労組などに組織されない市民と、政治の壁がいかに厚かったか。象徴的な場面があった。
市民側は、野田首相と直接話し合えるよう、議員らに助力を求めた。民主党の平岡秀夫元法相が「みなさんが何らかの組織の代表なら会える」というと、批判が相次いだ。
「私たちは組織じゃない。そんな状況自体、間接民主主義が機能していない」
経団連や連合―つまり票も金も動かせる組織の代表なら、首相に会える。なのに組織されない抗議は何万に膨らんでも、直接伝えられないのか。
菅前首相は「話を聞くのはやぶさかではない」という野田首相のことばを伝えた。早急に実現し、民主主義への絶望感を広げないようにすべきだ。
不信は深い。同じ脱原発派でも、一刻も早くと求める市民側と、一定の時間がいると考える議員には溝がある。市民が議員を詰問する場面もあった。
それでも対話の糸口は見えた。議員と市民の双方から、大切な指摘が聞かれた。
まず、民主党の辻元清美氏。
「日本を生まれ変わらせるエネルギーが官邸前にある。一緒に変えていく方向に、政治が動き出せるかどうかだ。今まで『要求する側』と『される側』だったが、一緒に悩み苦しまないと、問題を解決できない」
原発がなくても困らない社会をどうつくるか。共に悩む関係を築けるか否かが先行きを分ける。不信と分断に陥るのを避け、信頼と対話につなげられるかの瀬戸際だ。
「エネルギーシフトパレード」呼びかけ人の鈴木幸一さんは取材にこう語った。「首相の指導力で突破せよという声もあるが、民主主義の基本はスーパーマンに頼らないこと。物事を変えるのは『民意』だ」
民意が熟し、実鍵は「場づくり」だ。一例として、抗議行動の際、官邸前を車道まで解放すれば、市民と議員が対話しやすくなると提案する。
2人の思いに共感する。
敵だ味方だと壁をつくらず、対話しよう。
自民党などの原発推進派も臆せずに、抗議の市民と同じテーブルに着いてはどうか。
紙面のPDFはこちらからご覧下さい
2012年8月2日朝日新聞朝刊