昨日の毎日新聞のオピニオン面に、
ピープルパワーで拡大する首相官邸前での抗議行動に関しての寄稿が掲載されました。
今、確実に起きている民意の地殻変動のエネルギーは、
日本を変える起爆剤にできるのか。
政治もピープルパワーも今、正念場に来ています。
私は与党で作る「脱原発ロードマップを考える会」で、
どんな政権になっても道筋が変わらぬよう「脱原発基本法」を作る作業を開始しています。
2012年7月22日
毎日新聞朝刊
オピニオン「論点」
政府と市民、大きなズレ
「すごい組織力だね」―。
首相官邸前のデモに、ある閣僚が私につぶやいた。違うよ、個人の意思の集積だよ。認識のズレに愕然とした。今月9日、衆院予算委員会で向き合った野田佳彦首相にも違和感を覚えた。「総理、これは『音』ではなく『声』です。どう受け止めていますか?」私の質問に、「国民的議論をする」といつもの野田節答弁。民意の地殻変動をどこまで理解しているのだろうか。
このピープル・パワーは従来と質的に異なる。同時刻には関西電力前に2000人が集結した。仕事中にスマホで官邸前を気にするOLたち。ママ友宅で「おうちデモ」する主婦たち。同時多発的に波は広がり、大飯原発の再稼働後も人が増え続ける。「自分たちの運命は自分たちで決めさせろ」「エネルギーの将来像を示せ」「なし崩し的に次々再稼働に突き進むのでは」という不安は不満、不信が噴出した結果だろう。
地殻変動に鈍感すぎる
国際的には、「民衆レベルで原発にNOを言う日本初の動き」と評価されている。しかし政府は本質的変化に鈍感すぎる。わずか11回の意見聴取会などの官製「国民的議論」で江エネルギー戦略を決めようとする大きなズレ。共に悩み乗り越えるプロセスが重要なのに、形だけの”市民参加”はかえって信頼を失う。私は政府に直接、最低でも47都道府県で開催し、ワークショップ形式をとるなど、「声」を引き出す工夫と情報の透明化を求めた。
先日、長崎原爆被爆者と面会した。「福島の方々の力になりたい」と語る言葉は重かった。内部被ばくの恐怖を抱えて生きることは、核戦争と原発も変わりない。戦前最大の国策の過ちは「日本は負けない」神話で突っ込んだ戦争だった。戦後は「安全」神話で進めた原子力政策だ。国家が過ちを犯した時には、国策の断絶、すなわち「政策と体質の転換」をする勇気がいる。
与党で作る「脱原発ロードマップを考える会」への賛同議員は70人を超えた。原発新設を認めず、遅くとも2025年までに原発をゼロにする工程表を作り、藤村修官房長官や枝野幸男経済産業相と意見交換をした。さらにどんな政権になっても道筋が変わらぬよう「脱原発基本法」を作る作業も開始した。市民と共働の議員立法でNPO法を作った経験を、今こそ脱原発に向けて動かしたい。
必要なのは国民的合意
政権交代の原点は「負担やリスクの分担」だんった。必要なのは国民的なコンセンサス(合意)の形成だ。原発問題は国論を二分しており、「首相決断」で決めることではない。政治には国民の間のコンセンサスを作り上げる普段の努力が求められており、市民側も同時に試されている。かつての運動は「反対止まり」だった。「抗議」の先に、どのような社会をどう創るのか、ビジョンが求められている。
政府の中にも「声」を受け止め形にする受け皿が必要だ。原発事故直後、首相補佐官だった私は菅直人前首相に訴えた。「まず浜岡原発を止めましょう。たとえ1基でも原発を止めた事実は残ります」と。その直後、菅政権は原発停止要請へとかじをきる。それはひな鳥が卵からかえる時、外と内からたたいて殻を割るように、政府内外の「啐啄」で変革が起きた瞬間だった。
官邸間のこのエネルギーを、日本を変える起爆剤にできるかどうかの正念場にいる。ピープル・パワーも、政治も今問われている。
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