※原爆死没者について自ら調査したのは「記憶にある死没者11929人のみ」とする答弁書が出ました←岸田文雄内閣総理大臣の広島・長崎における外国人の原爆被害状況の認識に関する質問主意書
2022.12.9
本日11月29日(火)、下記の質問主意書を提出しました。12月9日に答弁書が閣議決定される予定です。
→12月9日(金)私の出した質問主意書への答弁書が出ました。「唯一の戦争被爆国」を連発して国際社会に核兵器の恐ろしさを訴えてきたという日本政府が、原爆死没者について自ら調査したのは、1985年に生存被爆者から回答を得た「記憶にある死没者11929人のみ」という事実。国外居住被爆者は調査の対象外。韓国・朝鮮人など外国人死没者数は認識されているのか? 爆心地近くで一家全員が犠牲となった方々は? G7サミットに向け「被爆の実相をしっかりと伝えることは『核兵器のない世界』への出発点だ」と述べてきた岸田総理、これで本当に実相が伝わるのですか?
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/210/toup/t210048.pdf
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岸田文雄内閣総理大臣の広島・長崎における外国人の原爆被害状況の認識に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
令和四年十一月二十九日
辻 元 清 美
参議院議長 尾辻 秀久 殿
岸田総理は、来年五月のG7首脳会議を広島で開催することを決定した。ロシアのウクライナ侵略戦争において、プーチン大統領は核兵器使用の可能性を何度も公言し、原子力発電所を核による威嚇の手段に用いている。東アジアにおいては、日米韓合同軍事演習に対抗して朝鮮民主主義人民共和国が戦術核兵器使用を視野に入れたミサイル発射実験を繰り返している。このように核兵器使用の危険性が高まる政治情勢の中で、岸田総理がG7サミットにおいて核兵器禁止を訴えることは極めて重要である。しかし、その訴えが日本の被害のみに注目するなら、アジアを始め世界各国に受け入れられることは困難という指摘もある。
それゆえに、日本を「核兵器の被害国」としてのみ位置付けて「戦争被害者としての側面」のみを強調するのではなく、細川内閣から第一次安倍内閣まで歴代総理大臣が表明してきた、日本国がかつて行ったアジア侵略への「深い反省」の上に立って、原爆で被害を受けたのは日本人だけではなかった事実、その中でも日本の植民地支配下に置かれていた朝鮮人が多数原爆の犠牲になった事実を認識し、被爆者援護法に基づいて日本国は全ての原爆被害者に平等に援護を行う責任があることを世界に発信した上で、核兵器が大量無差別殺戮兵器であり、その開発、製造、保持、使用を禁止すべきであることを、G7全体で確認する必要がある。こうした認識に立って、以下質問する。
一 岸田総理は、本年の広島、長崎の平和祈念式のあいさつにおいて、広島では「一発の原子爆弾が広島の街を一瞬にして破壊し尽くし、十数万とも言われる人々の命を、未来を、そして人生を奪いました。」と、長崎では「七十七年前の今日、一発の原子爆弾が長崎の街を一瞬にして破壊し尽くし、七万ともいわれる人々の命を、未来を、そして人生を奪いました。」と述べた。
1 「広島の原爆犠牲者が十数万」、「長崎の原爆犠牲者が七万」という数字の根拠を、明らかにされたい。
2 これらの数字の中には、朝鮮人を始めとする日本人以外の外国人犠牲者も含まれているのか。含まれているとすれば、出身国ごとの数の内訳を明らかにされたい。
3 含まれていないならば、日本人の犠牲者のみについて言及した理由は何か。
4 含まれていないならば、日本人以外の原爆犠牲者の実態について、政府はどのように把握しているか。
5 政府は、原爆被爆した生存者については国勢調査の質問項目に加えて調査をしているが、原爆死没者については調査を行ったことがあるか。行ったことがあれば、その調査結果を示されたい。
6 原爆死没者の調査を行ったことがなければ、今後行う意思があるかどうか、政府の見解を示されたい。
二 広島・長崎の原爆死没者を含む原爆被爆実態をまとめた資料として「白書を作るべきではないか」という国会での質疑に対し、これまで厚生大臣は、検討を進める旨の発言を重ねてきた。
○小泉純一郎厚生大臣 今までの実情調査を積み重ねた一つのまとめた(中略)集大成といいますか、そういうものをできるかどうか、鋭意検討を進めていきたい(平成元年五月二十五日、衆議院社会労働委員会)
○斎藤十朗厚生大臣 死没者調査、また海外やその他に散っております資料の収集等を含めまして、先生の原爆白書というお言葉もございましたが、そういった原爆被害の集大成をしたものを何らかつくってみたいという方向でひとつ検討をいたしたい(昭和六十二年七月二十九日、衆議院決算委員会)
1 政府は、現時点で前記のような「原爆被害の集大成」を作成したか。作成していなければ、検討した事実はあるか。また、「集大成」の作成の必要性について、政府の見解を示されたい。
2 前記「集大成」の中には、韓国・朝鮮人を始めとする外国人(以下「外国人」という。)の原爆被害実態も含まれるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三 岸田総理は、令和四年四月二十八日の参議院内閣委員会で「被爆の実相に関する正確な認識を持つということ、これは、核軍縮あるいは核兵器のない世界を目指すに当たって、これは取組の原点であると認識をいたします。唯一の戦争被爆国である我が国として、被爆の実相を世代あるいは国境を越えて世界に発信していく、これは重要な責任であると認識をいたします。」と述べている。
1 「被爆の実相」には、外国人の「被爆の実相」も含まれるか、明らかにされたい。
2 オバマ米大統領(当時)が平成二十八年五月二十七日に広島を訪問した際に、「なぜわれわれはこの地、広島に来るのか。(中略)多くの朝鮮半島出身者、そして捕虜となっていた十数人の米国人を含む犠牲者を追悼するためだ」(訳・共同通信社)と演説した。朝鮮半島出身犠牲者の数については根拠が不明なまま極めて過少に指摘したという問題はあるものの、オバマ米大統領が朝鮮半島出身者や米国人捕虜の犠牲者に言及したことにより、被爆者は日本人だけではないこと、核兵器は無差別殺傷兵器であることを、世界の人々が広く認識することになったと考えるが、オバマ米大統領のこの言及についての政府見解を明らかにされたい。
3 外務省のウェブサイトによれば、この際、岸田外務大臣(当時)は安倍総理(当時)とともにオバマ米大統領を出迎え、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑の前で黙祷を行っている。この黙祷においては、「多くの朝鮮半島出身者」等の外国人犠牲者を含む全ての被爆者に対する追悼を行っているという理解でよいか、政府の認識を示されたい。
4 外務省のウェブサイトによれば、この際、平和記念資料館前で安倍総理(当時)とオバマ米大統領(当時)は、それぞれ芳名録に記帳しており、安倍総理の記帳内容は「原爆によって犠牲となったすべての方々に哀悼の誠を捧げます。」である。ここにいう「原爆によって犠牲となったすべての方々」に「多くの朝鮮半島出身者」等の外国人は含まれているか、政府の見解を示されたい。
5 岸田総理が「世界に発信」していく上で、外国人の「被爆の実相」を知らせることは我が国の「重要な責任」と考えるが、政府の見解を示されたい。
四 政府は、韓国人原爆被害者の郭貴勲(クァク・クィフン)さんが平成十年に大阪地裁に提訴した「被爆者援護法の平等適用を求める裁判」において平成十三年六月の大阪地裁判決で勝訴した際に、控訴する一方で、同年七月から、被爆者援護法外の援護措置として「在外被爆者支援事業」(以下「支援事業」という。)をスタートさせ、その後も相次いで提訴された在外被爆者の被爆者援護法裁判において完全敗訴を重ねる都度、支援事業による援護内容を拡大させてきた。
1 支援事業の実施実態について、以下の点を明らかにされたい。
(1)支援対象となる在外被爆者の居住国とその人数の平成十三年以降の年度別統計
(2)支援事業((イ)手帳交付のための渡日支援、(ロ)治療のための渡日支援、(ハ)現地における健康相談等、(ニ)医療費に対する助成、(ホ)医師等の研修受入、派遣)ごとの国別の年間支援金額及び対象人数の平成十三年以降の年度別統計
2 在外被爆者が提訴した数々の被爆者援護法裁判において原告が勝訴した結果、政府が実施することとなった被爆者援護法の適用について、以下の点を明らかにされたい。
(1) 被爆者援護法の適用対象となる在外被爆者(被爆者健康手帳所持者)の居住国別の人数の平成十四年三月一日(いわゆる「四〇二号通達」の廃止日)以降の年度別統計
(2) 被爆者援護法第三章第四節「手当等の支給」に定めのある各種手当(医療特別手当・特別手当・原子爆弾小頭症手当・健康管理手当・保健手当・介護手当)ごとの、支給対象者の居住国別の人数と支給金額総計の平成十五年三月一日以降の年度別統計
(3) 被爆者援護法第三章第三節「医療」に定めのある「医療費の支給」及び「一般疾病医療費の支給」ごとの、支給対象者の居住国別の人数と支給金額総計の平成二十八年一月一日(在外被爆者に対する前記二種の医療費支給の開始日)以降の年度別統計
(4) 平成十九年十一月一日の最高裁判決(原告・元広島三菱徴用工被爆者四十六人、被告・政府及び三菱重工業。政府に「違法な四〇二号通達による損害賠償金、原告一人当たり百二十万円の支払い」を命ずる。)に従って、これまでに和解して慰謝料を支払った在外被爆者の居住国別の人数(死亡被爆者につき遺族に支払った場合には死亡被爆者の人数とする。)と支払金額の総額
3 司法は、全ての在外被爆者に被爆者援護法の適用があることを認めている。しかし、朝鮮民主主義人民共和国の被爆者(以下「在朝被爆者」という。)はいまだに被爆者援護法適用の対象外になっている。それは、政府が原爆後障害と高齢化に苦しむ在朝被爆者に対し、「在朝日本公館がないので、中国の日本公館に行って被爆者援護法適用の手続をすれば適用する」として、実質的に適用の道を閉ざしているからである。さらには、在朝被爆者は前記四で述べた支援事業の対象外にもなっている。その一方で、政府は平成十三年三月に、外務省と厚労省の職員から成る在北朝鮮被爆者実態調査代表団を派遣して以降、在朝被爆者の放射線による健康被害は重要な人道上の問題であり、早急な人道支援が必要であることを認めてきた。
この政府の在朝被爆者問題に対する基本認識と、在朝被爆者がいまだに被爆者援護法及び支援事業の対象外となっている実態には大きな乖離がある。政府はこの乖離をなくすために、どのような努力をしているのかについて、具体的に説明されたい。
五 岸田総理は、本年八月六日に広島で、八月九日に長崎で開催された平和式典において、「七十七年前のあの日の惨禍を決して繰り返してはならない。これは、唯一の戦争被爆国である我が国の責務であり、被爆地広島出身の総理大臣としての私の誓いです。」と述べ、九月二十日の第七十七回国連総会における一般討論演説においても「唯一の戦争被爆国であるという歴史的使命感を持って、日本は、「核兵器のない世界」の実現に向けた決意を新たに、現実的な取組を進めて参ります。」と述べた。
1 岸田総理の言う「「唯一の」戦争被爆国」が意味するところについての政府の見解を示されたい。
2 岸田総理が国連総会において述べた「唯一の戦争被爆国であるという歴史的使命感」には、政府が国籍や居住国にかかわりなく、全ての原爆被害者の援護に責任を持つことも含まれると理解してよいか、政府の見解を示されたい。
右質問する。