今回の金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」と年金問題に関して、6月12日に質問主意書を提出しました。
本日閣議決定された答弁書をもとに、安倍政権のありえない実態を整理していきたいと思います。
今後の経済見通し等に関する質問主意書(2019.6.12)
同質問主意書に対する答弁書(PDF)
<ありえない! その1~消された報告書>
金融庁の報告書で老後に約1,300万円~2,000万円不足すると示されたことで、年金不安が広がっています。
ちなみに、報告書に記載の社会保障給付191,880円のうち公的年金給付は191,019円です。夫婦二人とも厚生年金に加入しておらずに国民年金だけの場合(2019年度の満額65,008円×2人=130,016円)、不足額はもっと膨らむことになります。
そんななか、安倍政権は報告書を受け取らず、事実上、それ自体なかったことにするとのこと。「消えた年金」ならぬ「消された報告書」です。
<ありえない! その2~財政検証の公表先送り>
今年は5年に一度、年金財政全体の負担(保険料等)と給付(年金額)のバランスをチェックする年に当たります。年金財政全体の言わば大きな計算機をまわして将来にわたってバランスをチェックするこの作業を「財政検証」と言います。
前回は2014年、前々回は2009年に行われました。その結果は年金部会という厚生労働省の審議会に示されます。前回は2014年6月3日、前々回は2009年2月23日に公表されました。ともに計算機をまわすに当たっての前提数字(経済前提)が出揃ってから公表まで要した期間は3ヵ月程度でした。
今年もすでに2019年3月13日の年金部会に経済前提は示されています。
にもかかわらず、安倍政権は公表を参議院選挙後に先送りする構えです。自分たちに都合の悪い結果だからでしょうか。
<ありえない! その3~いじったあげくに上回ったことのない経済前提の設定>
経済前提の大もとには、内閣府が先々の経済見通しを立てる時に使用している「全要素生産性(TFP)上昇率」という聞きなれない数字が用いられています。
その定義は技術進歩などと言われますが、結局は、GDPの実績値から資本の伸びと労働の伸びを引いた残差に過ぎません。
そのTFP上昇率、実は、アベノミクス解散と言われた2014年末の衆議院選挙の直後の2015年2月12日に、過去に遡って大幅に上方修正(嵩上げ)されています。すなわち、2014年財政検証で用いられたTFP上昇率と今回の2019年財政検証に向けて設定されているTFP上昇率は、例えば同じ1.0%でも中身は異なり、並べて論じることはできないのです。
にもかかわらず、その事実について、どうやら厚生労働省として年金部会の委員に説明を尽くさないまま、今年の経済前提の議論が行われてきたようです(答弁書は「資料に出展を示しているのだから、専門委員なら見ればわかるでしょ?」的な内容)。
そして、TFP上昇率の実績値、直近の2018年度は0.3%で、安倍政権になってからはもちろん、民主党政権時代も含む過去25年間で最低値となったことが明らかになりました。
ちなみに、今回の財政検証に向けた経済前提の言わば中間的なシナリオであるケースⅢの0.9%・ケースⅣの0.8%ですが、安倍政権下の2013~2018年度で到達したのは2013年度の0.9%のたった一度きりです(その前の2009年度は0.7%、2010年度は0.9%、2011年度は1.0%、2012年度は1.0%)。
<ありえない! その4~永遠に来ない100年後。保有され続ける巨額の年金積立金>
さて、ここまで来てようやく出てきました重要なキーワード、「100年安心年金」です。これは2004年年金制度改正時のキャッチフレーズ(?)のようなもので、年金財政フレームとして「おおむね100年間で財政均衡を図る方式とし、財政均衡期間の終了時に給付費1年分程度の積立金を保有することとし、積立金を活用して後世代の給付に充てる」とされました。
あれから15年。では、なぜ「85年安心」とならないのでしょうか。
この2004年年金財政フレームでは、5年おきに都度概ね100年先を追いかけて財政検証が行われます。そのため、100年先は永遠に来ない仕組みとなっています。すなわち、ただでさえ「100年安心」でも無責任なのに、それどころか「未来永劫安心」と謳っているようなものなのです。
結果、かねてより「持ち過ぎだ」と批判のある年金積立金についても、「財政均衡期間の終了時」は実際には永遠に来ませんので、厚生労働省およびGPIFは永遠に巨額の年金積立金を保有し続けることになります。誰が考えたのかわかりませんが、よくできたカラクリです。
なお、年金積立金について、安倍総理は2019年6月19日の党首討論でも、立憲民主党・枝野代表に「6年間で44兆円の運用益を出した。民主党政権時代の3年間の10倍だ」と強弁しました。しかし、そもそも年数が違う上に、巨額の外国資産が為替の影響を受けていることは明らかです(数値について、答弁書は回答を避けました)。
厚生年金保険法等の趣旨に基づけば、大切なのはどっちが儲かったではなく、年金財政上必要な運用利回りを確実に確保することです。「リスクを冒してまで必要以上の利回りをとれ!」とは法のどこにも書いていません。そのことは強調しておきたいと思います。ちなみに、GPIFの2018年度の運用状況の公表予定日は2019年7月5日です。
<ありえない! その5~小泉政権が導入した特例水準。割を食った将来世代>
また、安倍総理は「将来世代のためのマクロ経済スライド調整を行った」とも強弁しています。
マクロ経済スライド調整は、前述の年金財政フレームのもと、負担と給付を将来にわたってバランスさせるため、給付側を文字どおりマイナス調整するもので、2004年6月の年金制度改正時に決まった仕組みです。
しかし、長らく発動されることはありませんでした。
その最大の理由は、2000~2002年度にかけて、物価下落にもかかわらず、特例法で年金額をマイナスせずに本来より高い水準(特例水準)で支払っていた時期があったからです。答弁書によれば、本来より高く支払われた年金の総額は約9兆円とのことです。
選挙目当てだったのでしょうか、当時、この特例法を成立させたのは小泉政権です。その分、将来世代が割を食うことになりました。そして当時、官房副長官、党幹事長として小泉総理を全面的に支えていたのが安倍総理です。
小泉・自民党政権が特例水準を導入したことで将来世代が割を食い、かつマクロ経済スライド調整も発動されずにさらに割を食うなか、「世代間の公平」の観点から、まずはこの特例水準を解消する必要がありました。
そこで、受給者の反発を覚悟の上で、将来世代の年金額を確保するために、民主党・野田政権は2013~2015年度までの3年間で解消する法律を2012年11月に成立させたのです。これこそが「政治決断」です。
「(年金について)民主党政権は何もできなかった」とテレビで吹聴している安倍応援団の御用評論家は、こうした事実を勉強していないのか、知らんぷりをしているのか…。
繰り返しになりますが、高齢者に伏して負担をお願いして将来世代のための環境整備を行ったのは民主党政権です。小泉政権の官房副長官として将来世代に割を食わせたにもかかわらず、いかにも自分こそが将来世代の味方のように安倍総理はふるまっています。しかし、やってきたことは真逆です。もし本当に目先の選挙のためだったとすれば、そのために年金を政治利用したのだとすれば、厳しく追及され続けなければならないと思います。
以上のとおり、金融庁の報告書を発端に、年金財政および財政検証のインチキさ、安倍政権のありえなさぶりが改めて明らかになりました。以前も指摘しましたが、例えば、2016年の法案審議の際に厚生労働省が示した「将来の基礎年金7%上昇」の根拠である「ケースE」というのは、TFP上昇率1.0%、物価上昇率1.2%、実質賃金上昇率1.3%とされ、それが足下の10年以降、90年間ずっとずっと続く「アベノミクスぼちぼち成功」のシナリオです。
直近2018年度のTFP上昇率は0.3%であり、しかも2014年度以降、毎年きれいに0.1%ずつ下落しています。したがって、「100年安心」の代名詞とも言える所得代替率50%というのはかなり厳しくなっていると言わざるをえません。
安倍政権が参議院選挙後に持ち越そうとしている2019年財政検証の結果を見なければ、本当に「100年安心」なのかどうなのかは誰にもわからないのです。
2016.12.8のブログ;「年金カット法案」への対案
「きちんとした経済前提をもとにきちんとした財政検証を行い、その結果にもとづいて審議し直すべき」――私はこの当たり前のひとことを訴え続けます。
<関連する過去ブログ>
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2016.10.23 政府が初めて年金積立金30兆円の損失発生可能性を認めました
2016.11.7 「今後の経済見通し等に関する再質問主意書」を提出しました。
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2019.2.1 GPIF第3四半期運用状況の公表を受けて